自分で事業を立ち上げたいという思いがずっとあった。父親の影響もある。

 そんな父親からNPO法人を譲り受けた。

 でも、また口論になると約束が破られるのではないか。だまされるのが怖い。手のひら返しをされたら、また傷つく――。そう考えていると芦沢さんに言うと、父親は約束を破らなくなった。

 父親は、芦沢さんが訪問するようになってから何も言わなくなった。

「父からしたら、変なことを口にすると芦沢さんに言われるので、何も言えなくなったのではないか」

 弘章さんは、NPO活動のために動けた。行動しやすくなったように思う。

「NPOでは、家にこもりがちな人たちを訪問したり、日中、皆で集まれるような場所をつくったりして、出入りが自由な生活を送れる家と、仕事のできる場や店をつくる構想を考えています。そこで出店している店の商品券を訪問先の人たちに渡せば、外に出なければ使えません。接骨院やマッサージなどを保険適用でできれば、働きたい人、頑張りたい人の背中を押せます。こうしたパーツを組み立てていきたい」

 弘章さんは、いろいろと動いていく中で、昔の感覚を十数年ぶりに思い出した。

「ずっと自分の中でモヤモヤしていたんです。そのモヤモヤがなくなってから、やりたいことができるようになりました」

 弘章さんは、サンショウウオが庭の中で外敵がいないため、やがて外に出られなくなったという昔聞いた話を思い出した。自分は、サンショウウオみたいに思えた。そこに芦沢さんが来て庭の入り口を広げてくれ、自ら出られるようになった。

「僕は何も情報を持っていないから、いろんな人の力を借りないと何もできない状態なんです」

 こうして2020年10月、NPO法人「永弘会」は、設立された。

 弘章さんに今の親への気持ちを聞くと、「これまで面倒見てもらった。感謝の気持ちしかない」という。

 もちろん、芦沢さんのような第三者のサポートを受けても、すべての人が弘章さんと同じような展開になるわけではない。ただ、芦沢さんが見せてくれたものこそ、本来の引きこもり支援のあり方だ。親の意向を受けて引きこもっている本人を引き出そうと迫るのではなく、親子関係の仲介に入って、それぞれの気持ちに丁寧に寄り添いながら、子ども側の味方に立つことなのだと思う。

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