新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、従来の「戦略」を見直さざるを得ないと考えている経営者、リーダーは少なくないだろう。しかし、コロナ禍の今、人員や資金力を増強させることは難しい状況ともいえる。そうした世の中を「勝ち抜く戦略」とはどんなものなのだろうか。P&G、ユニリーバ・ジャパン、資生堂など数多くの企業でマーケティングを指揮した経験を持ち、『なぜ「戦略」で差がつくのか。』の著者でもある、音部大輔氏が解説する。
「いい商品」定義が
コロナで強制的に変わっている
新型コロナウイルスの感染拡大により、事業を取り巻く環境は大きく変わりました。業績が大きく悪化してしまった企業も多く、アフターコロナでどんな勝ち筋を描いていくか、頭を悩ませている企業も少なくないと思います。
突然ですが、「オオシモフリエダシャク」という蛾をご存じでしょうか。
もともとこの種の多くの個体は、白っぽいコケが出ているような木の表面に生息しており、体は白色でした。白っぽい場所に溶け込むような白い体の色をしており、天敵である鳥に見つかりにくいという利点がありました。一方で数は少ないですが、中には体の色が黒い個体もいました。こうした黒いタイプは、風景に溶け込めないため鳥に食べられてしまいます。
ところが18世紀後半から19世紀に起こった産業革命で工業化が進んだ結果、その地域に白いコケが育たなくなり、木の表面は黒くなってしまいました。すると、何が起こったか。今度は白い個体が目立つようになり、天敵の脅威にさらされることになってしまったのです。
コロナ禍の今、まさにこれと同じことが起こっているといえます。今まで白が有利だったのが黒に変わったり、そもそも色が問われなくなったりということが生じている。つまり、顧客から支持される「いい商品」の定義が、コロナをきっかけに強制的に変わっているのです。
コロナ禍で起こったこうした変化に対応するために、「戦略を見直さなければならない」と考えている企業や部署、チームも少なくないでしょう。しかし、環境の変化それ自体を問題と捉えてしまうと、本質を見誤ります。
コロナで起きた変化が問題なのではなく、その変化が自社の戦略を構成している「目的」と「資源」に影響を及ぼすことが、本質的な問題なのです。