インターネットの「知の巨人」、読書猿さん。その圧倒的な知識、教養、ユニークな語り口はネットで評判となり、多くのファンを獲得。新刊の『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』には東京大学教授の柳川範之氏「著者の知識が圧倒的」独立研究者の山口周氏「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せるなど、早くも話題になっています。
この連載では、本書の内容を元にしながら「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に著者が回答します。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

9割の人が知らない「人生で挫折したくない」と思ったら知っておくべき2つのことPhoto: Adobe Stock

[質問]
希望の研究室に入れなさそうでつらいです

 大学の研究室配属が成績順です。1年後に配属ですが、成績が悪く希望のところに入れそうにありません。成績が良い人はそれだけ努力しているので何も言えませんが、希望じゃないところは全く違う分野になるのでつらいです。少しでも成績を上げることを考えることと他に、このつらさについてどう考えるべきかお知恵をお借りできれば幸いです。

歴史は挫折した者たちによって開かれています

[読書猿の解答]
 戦い方だけを言えば、圧倒的な戦力(この場合は他を凌駕する良い成績)がないのにレッド・オーシャン(この場合は人気の分野と研究室)に挑むのは愚策です。

「狭き門より入れ、滅びにいたる門は大きく、その路は広く、之より入る者多し」(マタイ伝 第7章第13節)

 しかし、人が進まない道を行くことができる人は多くありません。おそらく最初の目標を目指して努力されると思いますので、慰めになるか分かりませんが、別の話をいたしましょう。

 新しい分野を切り開いた人たちの中には、本当になりたかったものは別にあった、という人が多いのです。というのも、新しい分野は、その人以前には存在しなかったか、萌芽程度だったはずですから、野心ある若者としてはもっと主流のもの目指すのは当然です。

 ハイゼンベルクは、数学者になることを望んだが挫折し、ゾンマーフェルトの下で理論物理学へと進み、量子力学の創始者となりました。
 ヘーゲルは、牧師を志したが発音が悪くてうまく話すことができず、哲学の道へ進みました。
 スウィフトは、政界への野心を断念し『ガリヴァー旅行記』を書きました。

 目指したとおりのものになった人は立派ですが、多くは新しい道を開いた訳ではありません。歴史は勝ち残った者たちによって書かれるかもしれませんが、実は目指した道を挫折した者たちの手によって開かれることが多いのです。