インターネットの「知の巨人」、読書猿さん。その圧倒的な知識、教養、ユニークな語り口はネットで評判となり、多くのファンを獲得。新刊の『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』には東京大学教授の柳川範之氏「著者の知識が圧倒的」独立研究者の山口周氏「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せるなど、早くも話題になっています。
この連載では、本書の内容を元にしながら「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に著者が回答します。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

9割の人が知らない「話が長くてわかりづらい人」がやらかす致命的な誤りPhoto: Adobe Stock

[質問]
簡潔な説明を行うにはどうすればよいでしょうか

 自分では相手に必要な情報を与えつつ話しているつもりですが、職場の上司には「話が長い」と言われたり言葉尻をとらえられて脱線されたりし、逆に結論を前に持ってくると「前提を言え」と言われてしまいます。資料を使ったり腰を据えたディスカッションを行える場合は比較的に意思疎通が上手くいきますが、現在の職場のように口頭でスピード感のあるやり取りを行う場合は、あまりに相手へ意思が伝わらないために辛い思いをすることもあります。

 色々なコミュニケーションの本を読み、トピックの優先順位を考えたり、報告のテンプレートを作ったりしてもあまり状況は改善されないため、最近は絶望すら感じます。こんな私に、アドバイスをお願いします。

上司は部下が何を伝えたいかに興味がない。まずはここから

[読書猿の解答]
 広い視点から説明するのは後回しにして、最初に質問に狭く答えると、簡潔な伝達はCBAのフォーマットによると言われます。
CはCommon Knowledge(共通知識:聞き手が知っていること)

BはBut(しかし:聞き手が知らない新事実

AはAnswer(行動につながる答え、対策)です。

 例をあげると
「A社に送った見積もりですが、◯◯費の桁が一桁違いました。至急、連絡と謝罪が必要です。」
C: A社に送った見積もり…共通知識(見積もりを送ったことは聞き手も知っている)
B: ですが、◯◯費の桁が一桁違いました。…新事実(間違いがあったことは知らない)
A: 至急、連絡と謝罪が必要です。…対策(これでいいかはともかく何かしなければならないのは確か)

「「準備して」と言われた資料ができました。次は何をしましょうか」
C: 「準備して」と言われた資料が…共通知識(聞き手が指示したので当然知ってる)
B: できました…新事実(やり終えたことはまだ知らないから伝えた)
A: 次は何をしましょうか…対策(やることがなくなったので、対策は別の仕事をすること)

 このフォーマットの背景を説明すると、上司など仕事場でのコミュニケーションをとる相手に、こちらから一方的に意思を伝えて終わることはありません。必要となるのはむしろ「相手が意思を表明するよう促す/状況を設ける」コミュニケーションです。

 コミュニケーションの問題を抱える人の多くは、《前もって自分の頭の中にある伝えるべき内容を、相手に過不足なく伝わるよう適切に表現すること》が正しいコミュニケーションだと考えて努力しますが、大抵は見当違いの徒労に終わります。

 必要なのは、相手にコミュニケーションするよう促したり、相手の意思表示が生じる状況をつくるようなコミュニケーション、いわばメタ・コミュニケーションです。考え方は抽象度が高く、理解するのは少し難しいのですが、実践上はシンプルで労力少なく効果は高い。

 一般的に上司は部下が何を伝えたいかに興味がありません。もっと言うと他人はあなたが言うことに興味がありません。つまり他人は予め(言外に)デフォルト値として「私に何の関係が?」という問いを発しているようなものです。上司に置き換えると「どうしろと?」になります。

 CBAのようなメタ・コミュニケーションは、この言外の問い(これらもまたコミュニケーションについての問いであり、メタ・コミュニケーションです)「私に何の関係が?」「どうしろと?」に対応しています。

 たとえば、こちらが示すCBAのA(対策)がたとえ間違ったものであったとしても(むしろその方が)、聞き手は「それはまずい。むしろ、~~しろ」と言わなければならない状況に置かれます。こうして相手はコミュニケーションの中に招かれ、何か言わなくてはならない状況に導かれるわけです。

 まとめると、(相手がどうあろうと)こちらが正しいコミュニケーションできるよう頑張るというのでなく、相手をコミュニケーションに招き入れることを考えてみてください。