米国で初の承認に至る可能性がある新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防ワクチン。その鍵となる成分は、オーストリアの地方にある一族経営の小企業が製造している。ワクチン候補のサプライチェーン(供給網)がいかにぜい弱かを物語る事実だ。ポリマン・サイエンティフィック・イミューンバイオロジッシュは脂質ナノ粒子を製造する一握りのメーカーに入る。脂質ナノ粒子とは、遺伝物質を体内に送達するために使われる粒子だ。この粒子は長年、ニッチなアプリケーションにとどまり、新しい形のがん治療などに使われてきた。そんな中、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)が発生した。脂質ナノ粒子は、いわゆるmRNAワクチンの製造に欠かせない。米製薬大手ファイザーとドイツのバイオ製薬会社バイオンテックによって開発されたワクチンは、現在ヒトに対する臨床試験が行われており、新型コロナワクチン開発を巡る世界的な競争の先頭を走っている。