『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』が10万部を突破! 本書には東京大学教授の柳川範之氏が「著者の知識が圧倒的」、独立研究者の山口周氏も「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せ、ビジネスマンから大学生まで多くの人がSNSで勉強法を公開するなど、話題になっています。
この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら
(こちらは2020年12月の記事を再掲載したものです)
[質問]
レポートをどう書いたらいいのかわかりません
はじめまして、大学のレポートを書くことについてアドバイスをいただけませんでしょうか。
私はいま大学の文学部二年で、先日春学期の成績が返ってきたのですが、「レポートの書き方」のようなものを参考にしつつ、時間をかけて制作したにもかかわらず、レポートの成績がどれも中の下くらいでした。一年生の頃から授業には真剣に取り組んでいたし、今回はうまくいっただろうと思っていただけにショックです。
原因として考えられるのは参考文献を読むのに時間がかかりすぎることと、文章を書くことに不慣れすぎることではないかと思います。そこで、レポート作成において必要な文献を限られた時間で読み込むコツや日常的に文章を書くトレーニングがあれば教えていただきたいです。
アドバイスを得るために必要なのは、まず「情報開示」です
[読書猿の回答]
少し厳しい書き方になりますが、必要な情報が書かれていないのでアドバイスは不可能です。以下では「必要な情報が書かれていない」ことから推論したことをお話します。
今回の質問者様が抱える問題は「レポートの成績がどれも中の下」で自分が思ったよりも成績が悪かったことです。ご自身でいくつか原因を挙げておられますが、それらが正しいかどうか、またレポートのどこに問題があり何を改善すべきかを判断するには、どんな科目/テーマについてどのようなレポートを書いたのかという情報が不可欠です(実を言えば、大抵のご相談は、回答を得るのに必要な情報を盛り込むことに失敗しています。どんな情報を提示すれば自分に必要な回答が得られるか、十分に理解しているならば、その人はほとんど自力で目下の問題に対処可能だからです)。
これに対して質問者様が書いておられるのは、「レポートの書き方」のようなもの(これも具体的に示されていません)を参考にしたこと、時間をかけたこと、授業も真剣に取り組んだこと、なのに思ったほどの成績を得られずショックを受けたこと、です。原因についても、参考文献を読むのに時間がかかりすぎる、文章を書くことに不慣れすぎるの2つが挙げられているだけです。
つまり質問者様は、自分が質問した内容について有効な解答を得るためには、相談者に対してどんな情報を提供すればよいのかを分かっておられず、また分かってないことにも気付いておられないようです(仮説0)。
そこで私が立てた仮説は以下のようなものになります。自分の欲するところが明確な質問においてすら必要な情報を提供できない人が、レポートのような、要求されているものが必ずしも明確でない課題に対して、必要な事項が何かを理解して書くことが可能だろうか? 難しいと考える方が妥当である(仮説1)。
と考えれば「参考文献を読むのに時間がかかりすぎる」「文章を書くことに不慣れすぎる」などという見当違いの原因を挙げられてる理由も納得できる。この人はレポートという課題が何故出されているのか、そして何を書くべきなのかを全く理解しておらず、更にそのことにすら気付いてないのではないか(仮説2)。
「中の下」という成績と、授業/レポートともに真面目に取り組んだという記述から考えられるのは、文字数などの形式面では条件を満たしているので不可にするわけにもいかないが、評価すべきポイントがほとんど含まれていないレポートが提出されたのではないか(仮説3)。
しかも質問を読む限り、レポートを課しまた採点した授業担当者に、自分のレポートが何故レポートになっていないのかを尋ねに行った様子もない。この人は自分の能力不足に原因を帰属するばかりで、本来の原因究明を自発できない。(仮説0~1)と考え合わせると、命じられたことには従うが、指示の背景を考えない思考行動様式を持っているのではないか(仮説4)。
今私が思うのは、まともなレポート課題が課せられるまともな大学に通う機会が得られ、その弱点が明白になったことは、あなたにとって僥倖だ、ということです。
大学では、あなたが何を知っているかよりも、知らないことにどのように対峙したかが評価されます。これは、大学が知識を生み出す場である場所である以上、不回避なことです。なんとなれば、知識を生み出すためには、世界で誰もまだ知らないことに繰り返し挑む必要があるからです。大学での教育もまた、こうした研究に直接/間接に関わることを通じて行われます。
そして時間のスパンを少し長めにとれば、この基準は、知識を持っている者を評価することにもなります。知らないことに真摯に対峙する者は、自分の今の知識にしがみつく者よりも、最終的にはよく知る者になるからです。レポートは、その「対峙の仕方」を自分以外の人に示し、評価を得る機会のひとつです。
蛇足ですが一番ゆるく、しかし感想文とは違うレポートとは何なのか説明してある文章として『五 レポートの作法――どう書くか」野村一夫『社会学の作法・初級編』を。もう少しガチにストロングスタイルで、ゼロからレポートを書く技術を叩き込む酒井聡樹『これからレポート・卒論を書く若者のために 第2版』を紹介しておきます。