ビジョナリーであり実務家
「大胆さ」と「繊細さ」を併せ持つ経営者

 NTT幹部に、澤田社長の“人となり”や経営手法についてたずねると「とにかくせっかちである」と異口同音に答える。

 澤田社長の懐刀である井伊基之・NTTドコモ社長が「即断即決。とにかく意思決定が速い。彼はビジョナリー、将来を先読みしてビジョンを考える人。そして、ビジョンを描いて終わりではなくて、課題の進捗を逐一チェックまでしている」と言う。

 栗山浩樹・NTTコミュニケーションズ(コム)副社長の澤田評はこうだ。「澤田さんのリーダーシップの原点はコム時代にある。NTTグループほどにはしがらみやレガシーのないコムで、通信と情報システムという二大事業と新規事業を経験しており、(組織やプロセスといった)実務面でどう動かせばビジョンを実現できるのかという経験値もある」。

 また「経営者はせっかちじゃないと何も変えられない。『俺の言っていることは響いているか?』と常に周囲に確認し続けられるだけの強靱な精神力が澤田さんにはある」と続ける。

 ビジョナリーであり実務家――。経営幹部らの発言からは、ビジョンを描く「大胆さ」と、それを達成するために緻密なアプローチ法を設ける「繊細さ」が同居した経営者像が浮かび上がる。

NTTの課題の数はなんと140項目!
澤田社長が独りで意思決定を下す

 澤田社長は、持ち株の副社長時代から「ToDoリスト」のような課題やミッションを書き溜めていて、その数は140項目にも及んでいたという。

NTT澤田社長大胆さと繊細さを併せ持つ“独裁者”。澤田社長がしたためた課題のリストは140項目にも及んだ Photo by Kazutoshi Sumitomo

 澤田社長自身は「携帯も固定も国内市場が飽和してくるので、事業のポートフォリオや経営資源の配分を変えないといけないという危機感が根底にあった。通信分野だけじゃなくて、電力や不動産、医療などICTが絡むところは全方位で課題を棚卸しした」と振り返る。

 この140項目リストは、就任直後の中期経営計画で掲げた10項目(企業連携を進めるB2B2Xモデルの推進、グローバル事業の競争力強化など)のひな型となり、その後、新サービスの展開、DX(デジタル・トランフォーメーション)、研究開発、新規事業の四つにさらに集約されている。

 では澤田社長は、従業員32万人の巨大組織をいかに動かして課題を解消していっているのか。

 複数のNTT幹部が「大きな意思決定は澤田さんが独りで下している」と口をそろえるように、澤田社長は自身の知恵袋となる“戦略チーム”を社内に設けているわけではない。そういう意味では、歴とした独裁者である。

 おびただしい数の課題やプロジェクトの進捗は全て、澤田社長の「頭の中」にあるのだ。

 澤田社長が大局を見失うことなく大きな決断をできる秘密は、社内の「幹部登用術」と社外に張り巡らせた「華麗なる人脈」がある。