コム人材の重用と
「華麗なる人脈」が澤田社長の武器

 まず、社内の幹部登用術についてだ。戦略チームこそないが、優先順位の高い課題を仕切る要職には、澤田社長の出身母体であるコムの人材が配置されている。

 あるNTT中堅幹部は「巨大組織を動かすには、素性の分からないホームランバッター9人をそろえるよりも、気心の知れた『3割打者』で打順を組んだ方が得策だ」と言う。

 その言葉通り、澤田社長が「ドコモコムコム(ドコモ、コム、NTTコムウェア)の融合」「グローバル再挑戦」「R&D改革」を進める責任者には、コム人材が重用されている。

 まず、前述した井伊社長がその典型例だ。持ち株の若手の執行役員である岡敦子氏(技術企画部門長)、尾﨑英明氏(グローバルビジネス推進室長)、工藤晶子氏(広報室長、事業企画室次長)、谷山賢氏(経営企画部門長)は全てコム人材だ。

 それ以外でも、グローバル戦略を担う中核メンバーはコム人材だ。澤田社長がコム時代に一緒に汗をかいたメンバーが明らかに重用されている。

 また、澤田社長の社外の人的ネットワークは恐ろしく広い。「華麗なる人脈」とも言えるものだ。

 NTTは将来的にICTの世界標準を握る“切り札”として「IOWN(アイオン。Innovative Optical and Wireless Network)構想」を掲げている。IOWNとはネットワークの技術基盤を丸ごと変えてしまう構想のこと。現在のITは、電子で情報を伝送・処理するのが基本だが、さらにスピードを上げると発熱と電気使用量の増大という壁に直面してしまう。一方、IOWNは、光で情報をやりとりすること(正確には光と電子を合わせた光電融合)によってこの壁を越え、低消費電力、大容量、低遅延の伝送を実現しようというものだ。

 そして、このIOWN構想には、次世代のプロセッサー開発に興味を持つ米インテル、リアルで没入感のあるゲーム開発を目指す米マイクロソフト、ソニー、子会社がNTTとスマートシティーで協業している米デルも参画している。

 澤田社長は吉田憲一郎・ソニー社長とはソネット時代からの付き合いであり、サティア・ナデラ・米マイクロソフトCEOとも親交があり社長就任後にすぐに訪問している。外国人経営者であろうと、臆せずに会いにゆきビジネスの交渉をする。

 ICTの競争原理は激変している。NTT復権に向けて、社内外のリーディングカンパニーの経営者と議論し尽くし、 “共鳴者づくり”を加速させているのだ。