会員数100万人超の「スタディサプリ」で絶大な人気を誇り、「対比」の方法論で、難解な問題をクリアに読み解く講義が、知的な興奮を呼び起こし大好評の小柴大輔氏。話題の書籍『対比思考──最もシンプルで万能な頭の使い方』の著者でもある同氏が、考える力を高める「対比の発想法」を解説します。

対比思考Photo: Adobe Stock

発想力を伸ばすための「型」がある

 皆さんは、アイデアや意見を求められたときに、どんな風にアタマを使っているでしょうか。

 私は毎年、高校生や大学生に小論文指導をしています。多くの人は「自由に考えていいよ」なんて言われても、全然思い浮かばなかったり、ありきたりな発想の繰り返しになったりしがちです。

 社会で活躍されている皆さんにとって、アイデアを出したり、提案したりすることは日常の光景でしょう。それだけに、何のアイデアも意見を出せないというのは致命的です。

 そうならないためには、ただ漠然と考えるのではなく、汎用的に使える発想の「型」を持つことが大切になります。

 それが「対比思考」です。まず焦点が当たっているものの“対極にあるもの”を想定すること、さらに対極同士にある二つの要素を組み合わせるという考え方が非常に有効です。

 この対比思考のお手本となるのが、渋沢栄一の『論語と算盤(そろばん)』です。もともとは1916年に書かれたものですが、2024年度から“1万円札の顔”となるにあたり、近年、再評価されている書籍です。

 渋沢は、それまで重んじられていた「論語=道徳の価値観」とは対極にある「算盤=経済・資本主義の価値観」を持ち出し、さらに二つの対極的な思想を調和させた点が、画期的なアイデアだったというわけです。

 渋沢栄一は、いくつもの学校設立と数百社の会社設立にかかわったことでも有名です。「教育機関と営利企業」の両方に貢献したという点で「論語と算盤」の両立を自ら実現したのです。

新しいアイデアは、“意外な組み合わせ”から生まれる

 なにより「論語=古典的書物」と「算盤=計算用具」という意外なもの同士の組み合わせを書籍のタイトルとした発想法にすでにイノベーションに通じる対比思考があります。

 著書『イノベーションのジレンマ』で有名なハーバード・ビジネススクールのクリステンセン教授によるイノベーションの定義は、「意外なものの組み合わせ」です。

 意外なパートナーを得ることで、それぞれが新しい価値を、その時代にふさわしい価値を発揮するということが肝心です。

 例えば、この本には「士魂商才」という表現が出てきます。「江戸時代の武士のタマシイ」と「江戸時代の商人の才覚」、つまり「論語と算盤」の言い換えですよね。

 しかし、渋沢は「武士のタマシイ」と「商人の才覚」のそのままを同居させたわけではありません。そもそも『論語』という紀元前の古代中国の思想が、近世日本の士族の道徳へと読みかえられてきた歴史がベースとしてあったことにも注目しましょう。

 したがって、「士魂商才」「論語と算盤」といっても、渋沢が生きた新時代にふさわしいかたちでの、いわば両者アップデート版の合一でしょう。まして「読み・書き・そろばん」という前時代の寺子屋的リテラシーなどとはまったく似て非なる、資本主義時代の教養としての「論語と算盤」であったはずです。

 そうであるなら、21世紀の私たちにとっての「論語と算盤」の組み合わせは何になるかと考えることができます。楽しいですね。例えば「未来世代や生態系まで視野に入れた道徳哲学とSDGsを視野に入れたビジネスは……」「それをもっと具体化すれば……」といったようにアイデアを広げてみることができますね。

 アイデア発想に苦手意識を持っている方は、対比を意識するだけで発想力が飛躍的に向上するので、ぜひ意識的に頭の使い方を変えてみてませんか。