商社では「ゴミ」扱いされるレベルの事業

 このようにハードウェア、ソフトウェア、知財の新規事業を立ち上げたが、事業規模としてはいずれも小さく、商社では「ゴミ」扱いされるレベルだった。

 商社で「事業の柱」と考えられるのは、私がやってきた売上100億円、利益10億円というレベルではなく、一桁上がって売上1000億円、利益100億円の事業だ。

 ハーバード大学のマコビー教授が、米国の経営者を対象に調査し、以下のようにタイプ分けを行った。

1.クラフトマン(職工型=専門分野にのみ心を奪われるタイプ)
2.ジャングル・ファイター(一匹狼型=モーレツ主義)
3.カンパニーマン(会社人間型=組織重視)
4.ゲームズマン(ギャンブラー型=勝利にのみ満足を求める)

 当時の私は、経営者のタイプとしては「ジャングル・ファイター」なのだろう。

 私は時代の流れを感じると動かずにはいられない。
 パソコンブームのときはパソコン関連機器を開発した。中国ブームのときは中国に、ベンチャー投資ブームのときにはシリコンバレーにいた。国際会計基準、コーポレートガバナンスに注目が集まったときにはコンサルタント事業を立ち上げた。

 興味があるものには片っ端から手を出した。売上100億円、利益10億円の事業をつくる自信は常にあった。
 しかし、それ以上の事業はできなかった。
 会長の「この会社では何もしなくていい」のひと言には、こうした過去のやり方をすぐにワークマンに持ち込むなという意味があったのかもしれない。

土屋哲雄(つちや・てつお)
株式会社ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。「ダイヤモンド経営塾」第八期講師。これまで明かされてこなかった「しない経営」と「エクセル経営」の両輪によりブルーオーシャン市場を頑張らずに切り拓く秘密を本書で初めて公開。本書が初の著書。