製造業に残された最後の課題は
調達“時間”の三重苦

 製造業の生産性向上を阻む構造的な課題を、製品ができるまでのプロセスからもう少し詳しく読み解いていこう。製造業のプロセスを大きく分けると「設計」「調達」「製造」「販売」の4つに分解できる。

 このうち設計ではCAD/CAEによるデジタル化が進んでいる。また製造フェーズでは自動化、ロボット化、販売ではEコマースによるデジタル化によって生産性の向上が図られている。ところが調達フェーズだけはいまだに紙図面によるやり取りが残っていて、生産性向上のボトルネックになっていると吉田氏は言う。

 設計時点では3DCADなどコンピューターが活用され、データも存在するのに、なぜ紙図面によるやり取りが残っているのか。それは設計データのフォーマットがソフトウェアごとにバラバラだからだ。図面を受け取って加工を行うのは中小の部品供給業者。彼らにとって高価なCAD/CAEソフトウェアを何種類も導入しておくことや、それぞれがバージョンアップする度にコストをかけて最新版にアップデートすることは現実的ではない。そこで、どの加工業者にも共通して情報共有できる手段となるのは紙しかないのだ。

 吉田氏は「調達現場には“時間”の三重苦がある」、すなわち「作図」「見積もり」「待ち時間」に膨大な時間がかかっていると言う。部品点数が1500あるトナーカートリッジ製造機械を組み上げるケースを例に、吉田氏が説明する。

 まずは紙の図面の作図。設計データをもとに作図するのに1枚当たり30分はかかるため、1500枚では750時間となる。見積もりにはFAXを使うため、1枚1分として1500分=25時間かけて送信。相見積もりも取るとなると、その社数分だけ余計に時間がかかることになる。

 その見積もりも、紙図面をもとに相手が工程を考えてカン・コツ・経験ではじき出すため、結果が返ってくるまでに1日の稼働時間を8時間として約1週間(56時間)はかかる。見積もりに納得して、発注してから納品まで約2週間(112時間)かかると考えると、トータルでは約1000時間、つまり125日、4カ月もの時間がかかるというのだ。

「GDPの2割を構成する製造業の競争力向上は、日本の至上命令だ。仮に1社当たり年に1台、例に挙げたような機械を組み立てるとすれば、各社で1000時間が調達時の『作図』『見積もり』『待ち時間』に費やされることになる。製造業38万社すべてがこの状況のままであれば、3.8億時間、コスト換算では年間2兆円以上の間接コストが調達で消える計算になる」(吉田氏)