星野リゾートでは、IT開発の内製化をこの数年で急速に進め、現在は30人程度の体制を整えている。新型コロナウイルスが宿泊業に打撃を与える中、刻々と変わる開発計画や緊急案件に現場が対応し続けることができたのは、内製化のたまものでもある。内製化組織づくりの苦難を取り上げた前編に続き、後編ではコロナ禍に立ち向かったホテル業界の情シスチームの奮闘を追う。(編集・ライター ムコハタワカコ)
独特のマーケティングやオペレーションに
合うシステムを内製
写真提供:星野リゾート
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長野県軽井沢の地に最初の旅館を開業してから、2020年で106年目を迎えた星野リゾート。2003年に「ひとり情シス」からスタートした同社の情報システムグループは事業の成長に合わせて、社内からの異動とエンジニア採用により、2019年には約30人体制の組織にまで拡大した。
開発を行うエンジニアとプロジェクト推進、運用・インフラの3チームを擁する情シスグループが主に拠点とするのは、軽井沢と東京の2カ所だ。ほかにリモートで業務を行うメンバーもいる。軽井沢チームは主にネットワークやサーバーなどの運用やインフラ構築を担当し、東京ではシステム開発やプロジェクト推進などを担当。各チームはホテル開業時などのタイミングで現地に合流し、システム導入を進めるスタイルを取っている。
星野リゾートで活用されるシステムは多岐にわたるが、その開発に当たってはどのような工夫があったのか。情報システムグループを統括するグループディレクターの久本英司氏は「星野リゾートの独自戦略を実現するためには、イチからシステムをつくる必要がありました」と語る。
「市場には欲しいシステムがなかったので、自社でつくることを選択しました。今、藤井(エンジニアチームリーダーの藤井崇介氏)がメインで開発を担当している宿泊予約システムも世の中にはなかったものです」(久本氏)
星野リゾートはマーケティングやオペレーションの考え方が独特で、それが一般的なホテルへのアンチテーゼにもなっていると言う久本氏。今でこそ、予約システムで自社チャネルを重視するホテルは増えたが、同社が開発に取り組み始めた当初は、旅行代理店や外部の予約サービスとの連携を前提とする宿が多かった。また、フロントから調理、清掃まで兼務するマルチタスクのオペレーションを取り入れるホテルは、世界的にも珍しい。
「内製できる点を生かし、マーケティングからオペレーションまで一気通貫でシステムに盛り込んでいます」(久本氏)
開発を担う藤井氏も「従来のシステムは販売に大きな制約を課している」と話す。宿泊予約サイト(OTA)のブッキングエンジンは、いずれも顧客が多くの旅館の中から宿を選ぶ仕組みになっているが、これではホテルが独自のマーケティング戦略を取りにくい。
「『星野リゾート宿泊ギフト券』を使った予約などは自社サイトだからこそできる施策で、それが『他の人への旅のプレゼントにも使える』といった差別化要因になります。宿泊予約後のレストランやアクティビティも含めたサービスへの誘導も、自社システムだからできることです」(藤井氏)