DX時代に必要なスキル
OJTで身につけることは難しい

 もちろん先ほど例として挙げたタクシー運転手の方も、そのうちアプリの使い方に慣れることでしょう。同僚に聞いたり、お客さんに教わったりしながら、3カ月もしたら使いこなせるようになるのかもしれません。

 仕事をしながら習熟するこの形、仕事に必要な能力の開発の主戦場は「職場」であるというこの形は、これまでの日本企業が得意としてきた人材育成の手法です。職場で実際に仕事を遂行しながら、その仕事で必要とされる知識や技術に習熟していく仕組みは、OJT(On the Job Training)と言われます。ジョブローテーションで多くの従業員に多様な部門を経験させながらジェネラリストを育てることの多い日本企業では、それぞれの現場に配置された人がその現場に就いてから、同僚や先輩に教わりながら仕事を覚えるOJTという仕組みがフィットしていました。

 ですが、リスキリングで身につけてほしいデジタルスキルは、おそらく今どの職場にも「ない」スキルです。さらに言えば、デジタル技術は異業種からの参入を容易にするため、さまざまな現場で競争は激化すると予想されます。顧客も、あっという間により便利で使い勝手のいいモノやサービスに移っていきます。つまり、DX時代においては、人を育てる時間的な余裕はありません。

 したがって、すでにそのスキルを持っている熟達者に教わりながら、ゆっくりと仕事に必要な知識やスキルを身につける「日本型OJT」と、DXの時代に求められる「リスキリング」では、かなり方法が異なるものになるでしょう。

 リスキリングでは、社内だけでなく、社外にある学習プログラム(おそらくその一部は、アプリやシステムをつくり、提供してくれるベンダーが持っているはずです)をも駆使して、一定以上のスキルを早急に身につけることが求められます。

 この学習プログラムを終えたからにはこれだけのスキルを獲得しているはず、というように、学習によって身につくスキルを明快にしておくことも必要になるでしょう。これは、一つひとつの学習プログラムの効果や効能を、きちんと明らかにしておくことともつながります。また、その前提として、新しい仕事のために必要なスキルとは何と何であるか、しっかりと特定する「必要なスキルの可視化」も行わなくてはなりません。

 DXの両輪としてのリスキリングは、これからの日本企業に不可欠です。日本企業はリスキリングの基盤を構築するために、まずはそれぞれの仕事で必要なスキルを特定すること、そのスキルを着実に獲得できる学習コンテンツを内外から探してくることなど、さまざまな準備を早急に進めることが必要になるでしょう。

(リクルートワークス研究所 人事研究センター長 石原直子)