この仕事の進め方が大きく変わるDX時代でも、成果を発揮し続けられるように新たなスキルを獲得することが「リスキリング」なのです。どんなDX戦略を描き、どんなふうに仕事が変わるかを決めるのは企業ですから、働く人々にどんな新しいスキルを獲得してほしいのかを示し、リスキリングの基盤を構築する責任が企業にあると言えるでしょう。
DX時代の人材戦略というと、高度なAIやデータアナリシスの知識を持った特別な人材をいかに採用したり増やしたりするか、という話に終始しがちです。しかし、それだけではDXは決して成功し得ません。
一つのケースを例にお話ししましょう。ある知人が先日、SNSにこんな投稿をしていました。
「初めて配車アプリを使ってタクシーを予約。乗り込んだら運転手さんが『どちらまで』。それはアプリにすでに入力したんだけど……。『あ、そうでしたか。で、どの道でいきますか?』。え、最適な経路はアプリが教えてくれるんじゃないの? 『あんまり使い慣れていないので……』。結局私がGoogle Mapで道を調べ、口頭で道案内……」
配車アプリを使いこなせるかどうかは、DXというにはあまりに単純なことに思えるかもしれません。ですが、「価値を提供する新しいデジタルな方法を理解し使いこなせる」という意味で、これもDXの時代に必要なスキルの話なのです。どんな素晴らしいアプリやソフトがつくられ、導入されたとしても、それを使う第一線の人々がその使い方に習熟していなければ顧客に提供する価値は低下します。DXの結果、顧客への提供価値が下がるのでは本末転倒。その意味でも、DXとリスキリングは車の両輪なのです。
この例はとても日常的な場面を切り取ったものですが、これがありとあらゆる階層で起こる。それがDXのもたらす変化であり、だからこそリスキリングがあらゆる階層のあらゆる人々に必要です。