二つ目は、中国が抱える水問題である。2012年頃の中国は、水資源量が世界の5パーセント程度しかなく、しかも河川の水量の7割近くが飲料に適さないほど汚染されていたのである。水資源が不足している中国の事情から、日本の水源林を狙って購入しているというイメージが一人歩きしてしまったのだろう。
さらに、2011年に東日本大震災が起きたことで、デマや流言飛語が広まりやすくなっていたこともある。「復興」という絆を共有し、頑張ろうと奮い立って日本中が敏感になっていたときに、北海道のニセコ町で水源地を含む山林が外国資本に買われていたことがわかったのだ。
外国資本はどのくらい
日本の水源林を購入しているのか
外国人が日本の土地を簡単に取得できることを問題視する向きもあるが、今のところ水源林の売買に関しては取引を制限する国の法律はない。では、外国人または外国資本は日本の山林をどのくらい購入しているのだろうか?
農林水産省の令和元年(2019年)5月31日付のプレスリリース「外国資本による森林買収に関する調査の結果について」では、平成30(2018)年1月から12月までの期間における外国資本による森林買収について都道府県別に調査発表されている。
これを見ると1年間で30件の森林が買収されており、そのうち13件が中国人または中国系法人である。中でも北海道の倶知安町の17ヘクタールの森林が買収されており、利用目的が未定になっていることが気がかりだ。
だが、利用目的を見る限り「水源確保」を目的にしているわけではない。もちろん、地下水を含む水源の事業化を目論(もくろ)んでいないとは断定できないが、各自治体は防御策を講じている。
例えば、ニセコ町では2011年に「水道水源保護条例」と「地下水保全条例」が施行され、届け出や許可のない水源地の開発や地下水の揚水を規制しており、水資源の無秩序な採取を防いでいる。翌年の2012年には北海道で水資源の保全に関する条例が可決されて、全道で外資による水源地(山林)の買収に規制をかけた。また、他の多くの自治体でも同様の規制をかけて、水源地の山林を守っているのが現状である。