東京エレクトロンは、半導体製造装置シェア世界ナンバー3の会社である。最先端の半導体を作る上で不可欠な技術を持っているのだ。主要国がこぞって半導体技術の囲い込みに走っており、東京エレクトロンにも生産拠点の海外誘致の引き合いが強くなりそうなものである。だが、河合利樹・東京エレクトロン社長は国内生産中心の方針に変更はないと言い切る。特集『EV・電池・半導体 脱炭素の最強カード』(全13回)の#11では、国内生産にこだわる理由や、半導体製造装置メーカーとして優位性を維持する条件について、河合社長に聞いた。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)
半導体不足は当然の帰結
市場はビッグイヤーズに突入している
――昨秋から、自動車業界では半導体不足が顕著になり、台湾積体電路製造(TSMC)といった、半導体を受託製造しているファウンドリーなどへの設備増強ニーズが高まっています。しかし、自動車向けの半導体は、(半導体製造装置メーカーが)高い利益率を確保できる最新鋭の装置で製造されているわけではありません。製造装置メーカーとしては、旧世代の装置の引き合いが増えても本音ではうれしくないのでは。最新装置の納入に割ける人員が奪われてしまいそうです。
お客さまの半導体不足への対応の仕方には、いろいろあります。中古の装置を調達することもあれば、最新鋭の設備に投資することで空く「現行の最新装置」を自動車用に転用することもあるでしょう。
ただし、(新品の旧世代設備を納入してほしいという)要請があれば、設計が完了している昔の装置を販売すればいいだけです。半導体が足りないという状況で、東京エレクトロンが困ることは一つもないですよ。
――そもそも、今回の自動車業界における半導体不足の原因をどうみてらっしゃいますか?
IoT(モノのインターネット)、AI、5G(第5世代移動通信システム)などを起因とするデータ社会がやってきたことで、数年前から半導体需要がロングタームで急増していく「ビッグイヤーズ」に入っていた。
それなのに、新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動の減退で、自動車メーカーでも、自動車向けの半導体を納める半導体メーカーでも、本来するべき投資にブレーキがかかってしまった。これが今の半導体不足につながっているのではないかと思っています。
むしろ、コロナ禍の巣ごもりで需要が増えるのだから、半導体はますます必要になると考えるべきだったのかもしれません。それくらい、半導体の重要性が高まってきたということです。