上司が部下にどう接するかで
おそろしいほどやる気は変わる

 ホテルのロビーにあるコーヒーバーで、ノアさんというバリスタが働いていました。

 彼はとてもフレンドリーでサービスも素晴らしく、シネック氏はすっかり彼のファンになりました。あるとき、ノアさんに「ここでの仕事は好きかい?」と尋ねたところ、「もちろん!」との返事。リーダーシップの専門家でもあるシネック氏としては、その答えに興味を覚え、「なぜ、ここでの仕事が好きなんだい?」とさらに尋ねました。

 するとノアさんは、このホテルでは自分の直接の上司だけでなく、あらゆるマネージャーたちがコーヒーバーを通りかかるたびに調子を尋ねてくれて、かつ「私は、君の仕事にプラスになるために何かできるかい?」とまで聞いてくれるから、と答えます。それこそ、ノアさんがこのフォーシーズンズホテルでの仕事が好きな理由であり、それゆえに彼はこのホテルのコーヒーバーでモチベーションを高く保って働いている、というのです。

 ノアさんは近くにある別のホテルでもバリスタとして働いていますが、おもしろいことに、そちらのマネージャーはノアさんの調子を聞いてくれるどころか、うまくいっていない点をあら捜しして指摘し、ダメ出ししかしないといいます。そのため、そちらでの仕事は、「お金のため」と割り切って、目立たないようにしているとのこと。

 ノアさんの話を聞いたシネック氏は、このスピーチで経営者が従業員をどう扱うかで、こんなにまで顧客へのサービスが違うのかと、驚きを持って語っていました。

 この事例を、ノアさん本人のモチベーションの問題として片づけるのではなく、上司の声のかけ方が部下のモチベーションを大きく左右する、ということを学ぶべきでしょう。

 マネージャー(上司)が、その従業員(部下)にどう接するかで、同じ人間でも、仕事へのやる気がおそろしいほど変わってしまうのです。

 注目すべきは、フォーシーズンズホテルのマネージャーが、ノアさんに能動的に声がけをし、「何かできることはないか」と、自らに対するフィードバックを求めている点です。この行動こそが、部下のモチベーション向上に非常に大きな影響を与えていることを、ご理解いただけたのではないかと思います。

 変化の激しい昨今の職場環境では、自分よりも専門業務の経験値が高く、知識が豊富な部下と働く上司が増えています。こうした環境では、単に業務命令を出す・教える・諭すといったこれまでのルーチンでは職場がうまく機能しないことがあります。

 上司は旧来の方法に固執するのではなく、部下の専門性にある程度は任せるスタイルに変化させてみてもいいのではないでしょうか。

 部下がモチベーションを高めて、目標達成するのを支援していく。そこにこそ、変化の激しい状況下での上司のとるべき活路があると私は考えています。