自動翻訳が小規模企業や
英語嫌いの人々を救う!
日本人は英語の修得が苦手だと言われるが、隅田氏は「米国の報告によれば、米国人が日本語を習得するのに必要な学習時間は2200時間以上と全言語の中で一番長時間のトレーニングが必要だ。逆もしかり。つまり、日本人が英語を修得するのには2200時間以上かかる。日本人の英語の中高での学習時間は900時間ほどしかない。圧倒的に学習時間が足りない。だから、できないのは当たり前。英語力がないと劣等感を抱く必要はない」と断言する。
自動翻訳が高精度になったので、サッカー好きはサッカーに、プログラム好きはプログラムに打ち込めばよいのだ。特に語学に向いているわけでもない場合に、無理に英語の修得に時間を使うのは限られた人生を非効率に浪費することだ。
語学が好きな人はどんどん学べばいい。自動翻訳は、文脈や背景まで含んだ翻訳には対応できず、文学やジョークの翻訳や高度な同時通訳などは苦手。なので、翻訳や同時通訳の専門家はもちろん必要だ。また、翻訳や同時通訳の専門家も機械翻訳をうまく活用することによって、効率を上げることが可能であり、大いに「働き方改革」ができるはずだ。
より根本的な話として、英語に限らず語学を学ぶことには、自国の言語や文化を相対化し、俯瞰的な視座に立脚できることも含め重要な意義があることは言うまでもない。
機械翻訳を使えば、一定量生じる誤訳の対策に利用者が適切な努力をすれば、丸投げで翻訳するより費用を抑えられるため、中小企業などがニッチな技術の販路を世界に広げるのに役立つだろう。国内市場が縮小するなか、語学の壁のせいで世界に発信できていないコンテンツや技術やサービスを海外に広げるチャンスが生まれる。会議や商談やメールのやりとりにも有効だ。海外とのビジネスのスピードも向上する。ビジネス、アカデミック両方の分野で、語学が苦手なために埋もれていた優秀な人材も日の目を見る。個人でも組織でも、海外との交流が活発になる。
現在、隅田氏のチームは、総務省のプロジェクト「グローバルコミュニケーション計画2025」で同時通訳の開発も手がけている。
「一定時間話した内容をまとめて通訳する逐次通訳と違い、ほとんど遅延なく行う同時通訳は、話されている文章を適切な箇所で分割し、適宜情報を取捨選択し、翻訳するという、専門分野の機械翻訳と違った技術も求められる。2025年の大阪万博での実用化を目指しているところだ」(隅田氏)
誰もが高精度の翻訳、遅延の少ない同時通訳を安価に使える「翻訳の民主化」で、自らの意思とは関係なく英語力向上を強制される「英語奴隷」たちが解放され、救われる日は近い。そして、北風と太陽ではないが、強制されなければ、逆に、ポップ・ミュージックや韓流ドラマのファンの行動で証明されているように語学を学びたくなったり他国の言語や文化に自然に興味を抱いたり、外国文学を読みたくなったりする人も増えるかもしれない。