そして、9番が多方面にわたる領域の調整を真摯に進めることで得た信用により、多方面の人たちが、9番の意思決定は多方面にわたる利害関係を総合調整した結果であり、総合的な観点での最適解に近いものであるに違いないと考える。そうなると、いちいち細かく説明したり、説得したりせずとも、9番が総合的にお考えになられて決定したものならば、「従いましょう」という趨勢(すうせい)ができていくのである(そのためには過去の判断の結果が良かったという満足度が必要であるが)。

 9番の「個人的信用」は大変高いレベルになり、さまざまな事柄において、意思決定と利害調整にそれほどコストをかけることなく、全体が秩序だって整然と進むようになる。プロジェクトは成功に向かう。

真摯な調整役も
傲慢な利権者に

 しかしながら、その状況は往々にして長く続かない。9番に個人的信用があるため、9番の名前を出せば相手はさしたる疑問を抱くことなく、「承知しました」という。それを悪用して自分の便益を図ろうとする輩が出てくるからだ。

 また、9番も信頼を得るまでのような真摯(しんし)な姿勢を次第に忘れ、自分が決めさえすれば、何ごとも決まるという傲慢(ごうまん)な態度をとるようになる。そして、全体のためではなく、自分の都合や自分の利益に照準した利害調整をやり始める可能性があるのだ(これは、情報のハブとなるプラットフォームビジネスの事業者にもしばしば起こる現象である)。

 さらに問題なのは、自分の地位が多方面との太いパイプから来る情報力に支えられていることを深く自覚するがゆえに、自分の周囲の者が多方面との間に情報ルートを構築することを許さず、自分の領域だけに専念させ、対外調整は自分の専管事項にして抱え込んでしまうことである。

 9番が外部とのハブになることは、1番が官界に専念できたように、組織として短期的なメリットもある。しかし、長期的には外部とのパイプが9番の1本だけになってしまい、その情報仕入れ先が力を失ったりすると、さまざまな事態に対応できなくなる(小規模の外資系企業などでもよく見られる現象である。現地法人の社長は、本社とのパイプを他者が強めることを好まない。自分を通さないと会社が回らない仕組みを構築することで、社内を支配しようとする)。

 ずる賢い人が9番だった場合、自分の立場を守るために、常に外部に大きな交渉相手を作り出し、そことの交渉は自分だけしかわからない、自分がいなければ解決しないように見せかけ、自分がいなければ会社が立ちゆかないという偽装を行う。あの人を外すとこれまで進めてきた大事な交渉がすべて頓挫してしまい、会社は大混乱する可能性があるから、あの人を外すわけにはいかないと周囲に思わせるのである。