経済産業省の「DXレポート」公表から2年半。日本企業の9割以上でDXへの取り組みが進んでいない実態が明らかになっている。コロナ禍で事業環境にも大きな変化があった現在、DX加速のために企業が取るべき具体的なアクションとは何か。2020年12月、再度、日本企業のDXの実態と必要な施策について報告する「DXレポート2(中間取りまとめ)」を公開した経済産業省の商務情報政策局 情報技術利用促進課 課長・田辺雄史氏に話を聞いた。(編集・ライター ムコハタワカコ)
コロナ禍をきっかけに
変革に対応した企業とそうでない企業の違い
経済産業省が企業に計画的なDX推進を促した「DXレポート」の公開から2年半たった現在、実際にDX推進に取り組めている企業はほんの一部に過ぎない。情報処理推進機構(IPA)の2020年10月時点の分析では、9割以上の日本企業がDXに「まったく取り組めていない」か「散発的な実施にとどまっている」状況が明らかになった。さらに新型コロナウイルスの世界的な流行により企業を取り巻く事業環境は一変し、ビジネスの変革が“待ったなし”の状況となっている。
こうした状況を踏まえて経産省は2020年12月、「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会」の議論に基づいた中間報告書「DXレポート2(中間取りまとめ)」を公表した。
前編記事では、DXレポート2の取りまとめを担当した経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課の田辺雄史課長に、危機感を持っているはずの日本企業でDXがなぜ進まなかったのか、そしてコロナ禍により可視化されたDXの本質とは何かについて、話を聞いた。後編となる本稿では、DX推進のために企業が取るべき具体的なアクションについて、田辺課長にポイントとなる考え方を尋ねた。
経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課 課長 1997年早稲田大学大学院理工学研究科修了後、通商産業省(現 経済産業省)に入省。 2000年以降内閣官房、経済産業省、IPA等において、サイバーセキュリティ政策、IT政策に長年従事。 2017年よりIPA産業サイバーセキュリティセンターの立上げ・運営を陣頭指揮。 このほか、米国コロンビア大学院への留学、JETROデュッセルドルフ、在オーストラリア日本大使館への赴任等、幅広い海外経験を経て、2020年より現職。米国公認会計士。
2020年以降のコロナ禍では、テレワークをはじめ、社内のITインフラや就業ルールなどを迅速かつ柔軟に変更し、環境の変化に対応できた企業と対応できなかった企業の差が拡大した。田辺氏は「コロナ禍での環境変化に対応できているかどうかは、DXが進められるかどうかということと、ほぼ同じテーマと考えられる」として、次のように話した。
「コロナ禍で、既存のルールにとらわれずにどうすればいいかを考えられた企業は、企業文化を変えることに対しても積極的で、感染を防ぐといった本質を見逃さずに変革を進められた」(田辺氏)
コロナ禍をきっかけに、変革に対応できた企業とそうでない企業の明暗を分けたのは、何だったのか。田辺氏は「馬車がクルマに変わるようなときに、これを(どういう状況か)正しくとらえられるかどうか。これまでの既成概念にとらわれていると、発想を変えることは難しい」と述べ、デジタルを前提に物事を考え、柔軟な発想で新しい可能性を思いつけるかどうかが、こうした明暗を分けることにつながると語る。