マズローはおもに「欲求段階」理論で知られており、マネジメントに対し、業績中心のアプローチではなく、人間学的アプローチを試みた最初の人物の一人である。成功企業では人が主要な資源であるという認識はますます高まっており、マズローのモデルは依然として貴重なマネジメント概念である。

人生と業績

 エイブラハム・マズロー(1908-1970年)はアメリカの心理学者、行動科学者である。ニューヨークのブルックリンで、教育の機会に恵まれないロシア移民の両親の子として生まれた。学者として研究しただけでなく、産業界に身を置いた時期もあった。

 彼は、「初期の心理学者は心理学的な問題を抱えた人々の研究をする人がほとんどだったが、自分は成功している人々に目を向けた」と語るのが好きだった。彼の名声の主たる基盤である「欲求段階」理論は、1943年に「USサイコロジカルレビュー」誌に初めて発表され、その後、1954年の著書『人間性の心理学』(Motivation and Personality)で展開された。

 彼の概念はもともとは人間行動の一般的説明として提示されたが、間もなく職場における動機づけ理論に対する重要な貢献と見なされるようになった。彼の理論は今でもマネジャーが部下のモチベーションを理解し予測し影響を与えるのに利用されている。

思想のポイント

 マズローは人間の欲求を分類し、これらを低いレベルから高いレベルへと階層状に並べた。欲求の1つの段階が満たされるとそれはもはや動機づけ要因ではなくなり、さらに上の段階のまだ満たされていない欲求からモチベーションが生まれるようになる。マズローが分類した欲求段階とは、生存ないし生理的欲求、安全ないし安心欲求、社会的欲求、自己尊厳欲求、自己実現欲求で、この順序の階層になっている。現在ではこれらの階層はピラミッド型で表わされるのが普通だが、マズロー自身はそういう表わし方はしなかった。

 階層の5つのレベルは、次のように解説されている。