隣国フランスとスペインに納税する
山に囲まれたミニ国家

 税金は自分の国に納めるもの。ところが、広い世界には別の国に税金を納めているヘンな国がある。「ヨーロッパ最後の秘境」といわれるピレネー山脈の山間に位置するアンドラ公国だ。

 アンドラは東京23区よりやや小さい面積に、約8万人が暮らすミニ国家。フランスとスペインの国境付近を見ると、その存在に気づく。かつては農業が産業の中心だったが、現在は風光明媚な土地柄と消費税の低さ(4.5パーセント)を武器にした観光業で潤っている。2011年まではタックス・ヘイヴンの国として知られ、首都アンドラ・ラ・ベリャなどの銀行が資産隠しに利用されていたともいわれる。

 そんなアンドラの国民が税金を納める先は、なんと隣国のフランスとスペインなのである。奇数年にはフランスの大統領に現金を納め、偶数年にはスペインのウルヘル司教に現金と6つのハム、6つのチーズ、そして12羽の鶏を納めている。日本人が中国や韓国に税金を支払っていると考えれば、この国の税制の珍しさがわかるだろう。

 いったいなぜ、アンドラは他国に税金を納めているのだろうか? それは、アンドラがフランス大統領とスペインのウルヘル司教を元首としているからだ。

 アンドラのルーツは8世紀末にさかのぼる。

 当時はイスラム勢力が伸張しており、北アフリカからスペインに侵入した後、フランスにも手を伸ばそうとしていた。これに対し、フランク王国(フランスの前身)などのキリスト教勢力は、スペインの小都市ウルヘルに大聖堂を建設して砦とした。

 819年にはフランク王国が大聖堂一帯をウルヘル司教に献上。これがアンドラ建国のきっかけとなる。

 その後、13世紀になるとウルヘル司教とフランスのフォワ家の間で争いが起こり、1278年に両者の間で「アンドラの独立を認める代わりに、双方で土地を管理する」という条約が結ばれた。つまり、アンドラはスペインとフランスの共有地、そこから生じる利益は両国で分けあおうというわけだ。

 それ以降もアンドラはイスラム勢力ににらみを効かせてキリスト教圏を守り続けるとともに、自国の独立を保ち続けた。こうした歴史的な慣習が長く引き継がれているため、アンドラは現在もフランスとスペインに税金を納め続けているのである。