なぜ、イスラーム原理主義によるテロ行為が起きるのか?

――「イスラーム原理主義によるテロ行為」などという表現で、中東の争乱が語られることがあります。なぜ、イスラーム原理主義はテロ行為を起こすのでしょうか?

出口:もともと原理主義という言葉は、アメリカで19世紀末から20世紀初頭に盛んになった、過激なキリスト教のグループを指す言葉でした。この言葉がイスラーム教に転化されたのです。

ではなぜ、ISなどが「ムハンマドに帰れ」とか「クルアーンの世界に戻せ」とかを主張するのか。

それは歴史的に見ると、イスラーム世界も中国や日本と同じように、産業革命とネーションステート(国民国家)という人類の2大イノベーションに、乗り遅れたからです。

日本は明治維新によって、どうにか世界の趨勢(すうせい)に追いつきました。しかし一部の中東のイスラーム世界は、うまく追いつくことができなかったのです。

ISの主張は、わが国の明治維新の際の「尊皇攘夷(そんのうじょうい)」や「廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)」の考え方によく似ています。現代の中東の窮状は、優れた政治的指導者が登場しない限り、なかなか挽回できないかもしれませんが、それはイスラーム教の教義とは何の関係もない、歴史的、政治的な問題だと思います。それと、頻発するテロ行為については、ユースバルジの問題も視野に入れるべきでしょう。

――ユースバルジとは、何ですか?

出口:ユースバルジ(youth bulge)とは、「若年層の膨らみ」の意味です。政情が不安定で経済が低迷している中東では、人口の多い10代から20代の元気な若者が働きたくても働く場所がありません。イラクもシリアも国が壊されているのです。

若者がたくさんいる、けれども働く場所がない。一方でこれらの若者も恋をしたい、デートをして充実した青春をすごしたいと思っている。でも働けないからお金がないし、娯楽の機会も少ない。

そこでこれらの国の若者は、絶望してテロに走ってしまう……。このようなユースバルジが、中東のテロ問題の基底部分を形成していると考えられます。

――テロとイスラーム教を表裏一体の問題として考えてはいけないのですね。

出口:そう思います。もちろんイスラーム教の置かれている現状と無関係ではないかもしれませんが、表裏一体の問題として考えるのは、極端すぎると思います。

むしろ、ユースバルジのほうがはるかにテロとの親和性は高いと思いますね。

なお、ユースバルジについては、グナル・ハインゾーンの『自爆する若者たち 人口学が警告する驚愕の未来』(猪股和夫訳/新潮選書)という優れた本が参考になります。

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