脳ではなく、筋肉そのものにも問題
~最新コンピューターシミュレーションが導くKATPチャネルの全貌

 DEND症候群を引き起こす変異を有するKATPチャネルは、ATP濃度が上昇しても、チャネルの閉まりが悪くなっている。これがさまざまな症状を引き起こす原因だ。

 2010年に下村教授のオックスフォード時代の上司、フランセス・アッシュクロフト教授は「DEND症候群における低筋力症状は脳に存在するKATPチャネルの異常に基づく症状」であることをエレガントに証明し、米国の一流学術誌「Science」に発表した。

 しかし今回の論文で、下村教授らはアッシュクロフト教授が用いた変異とは異なるDEND症候群を発症する変異を用いて、脳だけでなく筋肉そのものに発現している変異型KATPチャネルもまた原因となって低筋力症状を引き起こしている可能性を示唆した。

 下村・オックスフォード大学の共同研究チームは、2017年の末に明らかにされたKATPチャネルの立体構造をもとにコンピューターを用いた分子動力学計算を行った。そしてDEND症候群を引き起こす変異型KATPチャネルではATPの結合力が弱まっていることを示した。

 発症のメカニズムがまたひとつ解き明かされた。この発見は今後のDEND症候群の新生児たちの治療、治療薬の開発に大きなインパクトを与えるだろう。(次回、オックスフォード大学での世界的快挙と早期治療の提言に続く)

(監修/福島県立医科大学病態制御薬理医学講座 下村健寿主任教授)

しもむら・けんじゅ/福島県立医科大学病態制御薬理医学講座主任教授。1997年福島県立医科大学卒業。群馬大学にて臨床医を経て、2004年より英国オックスフォード大学研究員として、世界を代表する生理学者フランセス・アッシュクロフト教授から8年間薫陶を受ける。その間、新生児糖尿病治療法の発見という世界的快挙に貢献。日本帰国後、新生児糖尿病に加えて肥満・2型糖尿病などの生活習慣病について、インスリン分泌や脳機能の観点から研究中。現在も月に200人近い糖尿病患者を診察する現役臨床医でもある。近著に『最強の医師団が教える長生きできる方法』(アスコム)。