さらに、メンバーシップ型の弊害が今の日本企業の競争力を低下させている点も、ジョブ型への関心を高めている理由だろう。メンバーシップ型の弊害として、古野所長は以下の4点を挙げる。

1.内集団バイアス……自分たちは優秀だ、よそものを評価しないという意識
2.集団的浅慮……異議が唱えにくい、オープンイノベーションが進まない
3.多様性への不寛容……中途採用者をよそもの扱い
4.フリーライドの許容…働かない人も高い給料、温情人事

 これらの弊害に、思い当たる節のある読者も少なくないはずだ。それならジョブ型を導入すれば問題がすべて解決するのかといえば、「ジョブ型にも弊害はある」と古野所長は語る。以下に挙げる5つの点で、弊害の起こる可能性があるという。

1.協働……多くの仕事は一人で完結しない。チームビルディングを意識すべき
2.組織市民行動……仕事と仕事の間、組織と組織の間にある仕事を拾う人がいなくなる
3.カルチャーフィット……経験やスキルからジョブを担えても、仕事に向かうスタンスや仕事の仕方が合わないというケースも
4.適職……自分が向いている仕事を自分で理解していることが前提になるが、若手を中心に実際はやってみないとわからない場合も多く、機会を喪失する可能性も
5.育成……まったく新しい環境に適応する過程で人は成長するが、ジョブ型だと異動させにくいので育成の可能性をはばむことも

欧米優良企業、日本の優良IT企業は
すでに「ジョブ型+メンバーシップ型」

 古野所長によると、社会心理学の観点から見ても「人はそもそもメンバーシップ型」なのだという。

「人は意識していないかもしれないが、愛国心や愛校心などを持っており、どこに属しているかが自分のアイデンティティを形成しているともいえる。また、幸福学においては、社会的なつながりや意味のある大きな組織への貢献が幸福の条件になっている」(古野所長)

 そうした人間心理を鑑みて、ジョブ型を基本としている欧米企業でも、メンバーシップ型では前提条件ともいえる「カルチャーフィット」を重視する動きが進んでいる。