お客様が「想い」を語ると、
こちらの話を「聞く」態勢になる

 そして、そのような関係性を築くために大事なのは「聞く」ことです。

 営業マンが「自己開示」をするのは、こちらが先に心を開くことで、お客様の心を開いていただくことです。だから、営業マンが「自分の話」ばかりしているようでは、話になりません。お客様が心を開いてくださったら、そのあとは、お客様の「人生」や「想い」に耳を傾けることに精力を注ぎます。

 ただし、これには「時間」が必要です。

 だから、僕はできるだけ面会に時間をかけるようにしていました。通常、営業の面会は「30分」を想定して、その時間内に完結できるようなセールス・スクリプトが用意されていますが、お客様が日頃明かすことのあまりない「想い」を語っていただくには、とてもその時間では足りません。

 そこで、僕は、お客様からアポイントを取るときに、少なくとも「1時間」をいただけるようにお願いをしていました(もちろん、お客様のご都合に合わせて短くすることもありましたが……)。しかも、保険営業では、基本的には3回の面会でご契約をお預かりすることが目標とされていますが、僕は、それにはとらわれず、回数が増えても構わないから、お客様からじっくりとお話を伺うようにしていました。

 そして、お客様の人生に思いを馳せながら、営業マンとしてではなく、一人の人間として耳を傾けます。営業マンもお客様も同じ人間ですから、必ず、自分の人生と重ね合わせて共感することができる部分があります。そこに心を共振させながら話を聞いていれば、お客様も自然と普段はなかなか明かさない「想い」も語ってくださるようになります。

 そして、その「想い」をしっかりと受け止めることができれば、今度は、お客様がこちらの話を聞く態勢を取ってくださるようになります。このとき始めて、「保険」の話ができるようになるのです。

 もちろん、「相性」のようなものもあるので、こちらがどんなに親身になって耳を傾けようとしても、心を開こうとなさらないお客様もいらっしゃいます。あるいは、心は開いてくださったけれども、「保険」に入る気持ちはまったくないことが伝わってくることもあります。

 そのような場合は、無理して「保険」の話などする必要はありません。そんなことをしても嫌われるだけ。それよりも、貴重な時間を割いてくださったことを感謝するとともに、「僕は保険のプロです。今後、何かお役に立てそうなことがあれば、いつでもご連絡ください」などとお伝えするに留めていました(実際に、後でご連絡をいただいたことはかなりあります)。

「保険に入った理由」を語れば、
お客様はご自分にあてはめて考えてくれる

 しかし、多少なりとも「保険」に対するニーズがあると感じられた場合には、僕は、率直に「なぜ保険が必ず人生のお役に立つのか勉強してみませんか?」とお伝えしました(アポイントの残り時間が少ない場合は、次回のアポイントをお願いします)。

 そして、OKのようでしたら、「保険」の話に入っていきます。ただし、ここで一般論として「保険の必要性」を語り始めると、せっかく醸成されつつあった「Weの関係」が崩れてしまいます。

 だから、僕は、「自分がなぜ保険に入ったのか」について自己開示するようにしていました。僕がくどくど説明しなくても、お客様は、僕の語るストーリーをご自身に重ね合わせて、「保険」について思考を深めていってくださるからです。

 僕が保険に入ったのは、新卒でTBSに入った直後のことでした。

 当時、僕は、保険には全く興味がなかったのですが、京大の同級生から「プルデンシャル生命保険の営業マンに会ってみないか?」と声をかけられて、同級生への義理だてでお会いしました。すぐにお断りするつもりでしたが、その営業マンといろんなお話をするなかで、自分の両親の老後を心配している自分がいることに気付かされました。

 僕の両親は高卒の元ヤンキーで、裸一貫で事業を立ち上げて、苦労しながら僕に学歴をつけさせるために一生懸命働いてきてくれました。ところが、僕が早稲田大学在学中に自己破産。ですが、その後も勤め人になり苦労しながらも京都大学を卒業させてくれました。

 そしてTBSに入社にすると、同期をはじめとする社員さんにはとても育ちのよい人たちが多く、その中に入ると逆に、本当に苦労して僕を育ててくれた自分の両親が誇らしく思えました。

 勉強をする生育環境になかったために学歴もなく、カラオケに行くと英語が読めず、上に書いてあるカタカナを読んでいるような両親です。そんな両親が、僕のために必死に働いて、愛情を注いで育ててきてくれました。だからこそ、今の自分がある……。

 そんなことを改めて考えるきっかけを、その営業マンが与えてくれたのです。そして、営業マンと一緒に「両親の老後」を考えていると、ものすごく心配になってきました。