例えば、パソコンでの作業をメインとするデスクワーク中心の労働に従事している人であれば、比較的容易に「リモート」に移行できるのではないかと思われる。

「リモート」の方が、働き方改革の一環として拡張された「フレックスタイム」制との相性もいいように思える。

「打ち合わせ」も、ZoomやWebex、Google Meetなどの会議システムですませられそうだ。

「打ち合わせ」を、進行中の作業内容の確認とスケジュール調整に限定し、“それ以上のもの”はハラスメントなどの人間関係の摩擦の温床になるのでむしろ有害、と割り切ってしまえば、確かに「リモート」がよさそうだ。

 しかし、そう簡単に割り切っていいのか。

 イングランド銀行のチーフ・エコノミストであるアンディ・ハルデーン氏は、昨年10月に行った「在宅の仕事はあなたにとって良いことか?」と題した講演で、コロナ禍でリモートワークの割合が増えたことのメリットを指摘している。

 通勤時間の短縮などのほか、各人が職場で本来、必要とされているデジタル作業を自宅でできるようになるために積極的に技術向上の努力をせざるを得ない状況を生み、そのことが労働における自律性の確立といった面では明らかなメリットだという。

 しかし一方で、ハルデーン氏はデメリットも指摘している。

 それは、すぐ目に見える形では表れてこないかもしれないが、長期的に見て生産性を低下させる恐れがあることだ。

 その要因として、一つは職場の創造性(workplace creativity)、もう一つは、仕事をめぐる関係性、あるいは社会関係資本(social capital)が損なわれる可能性を挙げている。

 ハルデーン氏が職場の創造性を高めるものとして具体的に念頭においているのは、職場での騒音や匂い、自宅とは違う環境、他人の存在などだ。

 通常、これらは、気を散らし集中を妨げる要素として生産性に負の影響しか与えないと考えられている。だがハルデーン氏に言わせると、同僚らとのランダムな会話からのアイデアやオフィスから外に散歩に出て新しい刺激を得ること、偶然の出会い、発見が想像力を喚起し、イノベーションにつながることがあるという。

社会関係資本が減少
「暗黙知」が失われることに

 対面でのコミュニケーションによる刺激という問題は、フランスの社会学者ピエール・ブルデュー(1930―2002年)が唱えた社会関係資本とも密接に関わっている。