学校への親の付き添い問題
社会資源の活用で解決できないか

 また、保育所や学校の設置者には、医療的ケアやその他の支援ができる人材の配置、特に学校看護師の配置に責務を持たせた。前述のように、親が医療的ケアをするために離職を余儀なくされ、学校での付き添いや待機を求められているからだ。

 神奈川県横浜市在住の土屋義生さん(41歳)は、公務員として児童福祉の仕事をしていたが、2年前に仕事を辞めた。夫婦共働きだったが、荘真君(7歳)の医療的ケアをするため、父母のどちらかが日常的に付き添う必要があるからだ。

「医療的ケア児」を社会で育てる法案の成立が待ち望まれる窮状土屋義生さんと医療的ケア児の荘真君(写真提供:土屋義生さん)

 荘真君は、昨年から特別支援学校へ通学している。人工呼吸器を装着しているのでスクールバスに乗れないため、土屋さんは自家用車で荘真君を送迎し、午前9時から午後3時までの学校生活全般でたんの吸引や人工呼吸器の管理などをする。この特別支援学校には4人の看護師が非常勤やパートで配置されているが、「人工呼吸器には触れてはいけない」と制限がかかっているため、土屋さんがフォローしなければならない。

 土屋さんは授業中も荘真君に付き添うが、基本的に「親は学校教育に口出ししないもの。教員と生徒の関係を壊してはいけない」と思うため、黙ったまま傍らにいるという。だが、土屋さんは学校看護師という専門職について、こう提案する。

「医療的ケア児の生活は、教育・医療・福祉が重なり合って連携していないと成り立っていきません。学校も医療と連携していくことが必要です。このため、学校看護師を配置するだけでなく、(業務が拡大できるよう)裁量を増やすこと、また、普段から自宅で医療的ケアを受けている訪問看護師やヘルパーを学校に派遣できるようにすることができたらと考えます」と医療的ケア児支援法成立に期待を寄せる。このように社会資源をうまく使えるようになると、学校と家を切り離すことができ、親が付き添う必要がなくなる。

 同法案には、「医療的ケア児支援センター」の設置も地方自治体の責務とされている。現在は地方自治体に権限が一任されているため、保育所や学校等の問題で担当部署の情報不足による地域間格差が大きく広がっている。

 医療的ケア児者支援協議会親の部会会長の小林正幸さんは「センターは設置されるだけにとどまらず、地域を超えてベストプラクティスを共有する必要があります。そのためには、さらなる情報収集と発信が必要になると感じています」と話す。

障害福祉サービスの報酬改定
障害児保育のすそ野を広げる

「永田町子ども未来会議」は、さらに、医療的ケア児とその家族が国の障害福祉サービスを利用しやすくなるよう、制度変更も実現させた。これまでの障害福祉サービスでは医療的ケアが必要になることは考えられておらず、特に、動ける医療的ケア児に対する見守りの負担度が高くなることは想定さえされていなかった。

 そこで、医療法人財団はるたか会の理事長の前田浩利医師らは医療的ケア児の日常生活をコマ撮り撮影し、ケアにかかる時間、ケアをしない時間、見守りが必要な時間やその状況等を詳しく分析した。その結果をもとに、新たな判定基準を作成し、今年4月から障害福祉サービスの報酬を改正した。

 特定非営利活動法人フローレンスに勤務し、同法人が事務局を務める、一般社団法人全国医療的ケア児者支援協議会事務局の森下倫朗さんは「今回の報酬改定で、ようやくフローレンス全体で常勤看護師約2.5人を雇用できる金額を確保でき、医療的ケア児を保育・支援する現場の状況に見合う、貴重な一歩を踏み出すことができました」と話す。

 フローレンスでは障害の有無にかかわらず、すべての子どもが適切な保育・支援を受けられる社会を目指して、自治体などへ障害児保育のノウハウを研修として提供もしている。

 地域全体で子育てができる社会づくりを広げていくことが急務となっている。

参考:野田聖子「医療的ケア児の母親として、政治家として」『難病と在宅ケア』26(10),pp15-17,2021年
*1  OECD, Infant mortality rates (indicator). doi: 10.1787/83dea506-en (Accessed on 13 May 2021) ,2021
https://data.oecd.org/healthstat/infant-mortality-rates.htm
*2  在宅の医療的ケア児の推計値(0~19歳),厚生労働科学研究費補助金障害者政策総合研究事業「医療的ケア児に対する実態調査と医療・福祉・保健・教育等の連携に関する研究(田村班)」の協力のもと障害児・発達障害者支援室で作成
*3 前田浩利他「障害福祉サービス等報酬における医療的ケア児の判定基準確立のための研究(1)研究の全体像」『日本医師会雑誌』,149(10),pp.1811-1815,2021
  前田浩利他「障害福祉サービス等報酬における医療的ケア児の判定基準確立のための研究(2)医療的ケア児者の運動機能向上による介護者の日常生活およびケア(特に経管栄養)の負担」『日本医師会雑誌』,149(11),pp.2003-2006,2021