たとえば、国際医療福祉大学医学部の坂本昌也教授(内科)がかつて日本の糖尿病患者10万人のデータをもとに行った調査では、血糖値、血圧値、脂質値、体重が治療ガイドライン通りにコントロールできている患者は、夏場で15.6%、冬は9.6%しかいなかったという。

「2型糖尿病については2019年に、『大幅な減量をしなくとも、5年間で体重の10%を減らすだけで寛解し得る』という論文が、英国の研究チームよって発表されています。

 この論文のポイントは、試験対象になった方が初めて糖尿病と指摘された患者さんであるという所です。糖尿病を発症したとしても早期であれば治せるかもしれない、というのは非常に魅力的ですよね。糖尿病に限らず、生活習慣病においては、生活習慣の改善が何より重要だというのは以前から分かっています。でも実は、それが一番難しい。

 私も患者さんに、よい生活習慣を身に付けて、体重の5%を半年で減らすことを推奨しています。しかし実践出来る方はほぼ皆無とまではいいませんが、ほんの一握りです」(坂本教授)

 生活習慣の改善はかくも困難であり、生活習慣病を治療する医師たちは皆、「どうすれば患者に行動変容してもらえるのか」と頭を痛めつづけてきた。

 そうした現状に2020年9月、劇的な変化をもたらすヒントになる研究成果を、東北大学東北メディカル・メガバンク機構および東北大学産学連携機構イノベーション戦略推進センター革新的イノベーション研究プロジェクト(以下、COI東北拠点)と、宮城県登米市との共同研究チームが公表した。

 その内容は、「年に一度の特定健康診査(以下、特定健診)会場で尿ナトカリ比を測定し、その場で結果の返却と保健指導を行う」という非常にシンプルな方策を実行しただけで、対象となった住民の高血圧が改善に転じた、というもの。

 驚きの成果の詳細を、研究責任者の寳澤篤教授(東北大学東北メディカル・メガバンク機構、予防医学・疫学部門個別化予防・疫学分野)に取材した。

「高血圧患者率」県内最多の
登米市に起きたうれしい異変

 研究のきっかけは、「市民の高血圧問題・脳卒中問題をなんとかしたい」という宮城県登米市役所の担当課からの相談だった。

 東北大学東北メディカル・メガバンク機構は、未来型医療を築いて東日本大震災被災地の復興に取り組むために、2012年2月1日に東北大学内に設置された組織であり、事業の一環として2013年度から開始した大規模な長期健康調査とその結果の活用を通じて、登米市と機構の間に相談しやすい関係ができていたようだ。