「ビジネス的な戦略で虎ノ門に出店しようと思ったわけではありません。虎ノ門に店を構えるスーパーマーケット『福島屋』の会長が、昨秋にうちの養殖場に来られたとき、カキフライ自販機の設置をお願いしました。当社の、自然の力を最大限に利用した有機的で持続可能な養殖方法が、福島屋のコンセプトと重なるということもあって、虎ノ門ヒルズのお店に自販機を置いていただけるようになったのです」

 日本ではカキの多くはむき身で流通・消費されるため、むき身を効率的に量産できる筏(いかだ)養殖が多い。一方、欧米では多くが活きたまま殻ごと流通・消費されるため、安定した身入りと見た目の美しさにもこだわり、カゴで養殖している。欧米式の養殖方法は国土の狭い日本では生産量も限られるが、それでも品質の良いカキを育て続けてきたことで、思わぬ縁が結ばれたわけだ。

「虎ノ門ヒルズだと、オフィスを利用する人が平日に購入してくれます。リピーターも多く、全体の約3割程度を占めています。日本で多く流通している冷凍食品のカキフライは、小ぶりなカキに、添加物や調味料を多量に入れた衣をつけて揚げているものが多いです。しかし、当社で作るカキフライは、鮮度の良いカキに、有名レストランでも使われている無添加の生パン粉を使用しています」

 スーパーの総菜コーナーに置かれているようなカキフライは、その分だけ価格も安くなっている。しかし、「高くてもおいしいカキフライが食べたい」と思ったとき、わざわざ専門店や高級店に行かなくても買える自販機は手が出しやすい。

「『1200円のカキフライ』というと高価に感じますが、生でも食べられるクオリティのカキ、保存料や調味料不使用の衣を使用しているので、味は保証します。今は共働き家庭が増えるなどし、揚げ物をしたくても時間がとれない人も多く、市販の揚げ物の需要は高まってきていると思うので、今後は、添加物や調味料不使用の衣を使っていることなど、商品のこだわりをよりアピールして、多くの人に手に取ってもらいたいですね」

 東京と地元広島で販路を拡大した後、海外にメイドインジャパンのカキを届けたいと意気込む鈴木氏。「海外では生ガキが主流ですが、揚げ物が好きな外国人に、カキフライはきっと受け入れられると思います」と、力強く語る。

 天ぷら、すし、ラーメンなど、海外で人気の日本食。いずれ、カキフライもその一つとなる日が来るのかもしれない。