ゴルフ練習場へ行ってみると、ボールを置いては打ち、また置いては打ちとただただ機械的に打ちまくっている人をよく見かける。たしかに、初心者のうちはとにかく打って、ゴルフスウィングそのものに慣れる必要があるだろう。

 しかし、ある程度打てるようになっても、そのまま何も考えずひたすら打ちまくる練習で上達しようとしているプレーヤーは、レズリー・ショーンの言葉を借りれば「あわれ」なのかもしれない。

 「われわれは、誰も到達できない完全な技術を求めて一生懸命に練習努力している。それはあたかも、ドッグ・レースで決してとらえられないウサギの模型の獲物を追って走る犬とよく似ている。だが、これこそがゴルフをこのうえもなく魅力的にしているのだ」(トニー・レマ)

 トニー・レマは、1964年のセント・アンドリューズでの全英オープンで、練習ラウンドを1ラウンドしかせず、ジャック・ニクラスに5打差をつけて優勝した。彼はゴルフの練習をドッグ・レースにたとえて、練習してもうまくならないもどかしさを語っている。

 プロのレマがいろいろ考えて練習しているにもかかわらずそうなのだから、アマチュアがただやみくもにボールを打つ練習は、やはり効果が薄いだろう。

 ほとんどのプレーヤーの練習は、ちゃんと当たったかとか、右へ出た、左へ出たとか、右に曲がった、左に曲がったとかの結果を見ているだけで、どういうボールを打ちたいかという目的意識がない。

 なんだか知らないけど「結果はこうだったな」というだけで、「狙った方向に飛ばなかったのはどこに欠陥があるのか?」「それを修正するにはどうするのか?」などはあまり考えずに打っているだけなのだ。

 「ゴルフコースはスウィングの欠点を発見するところであり、練習場はスウィングの欠点を直すところである」(アーネスト・ジョーンズ、イギリスの医学者)という名言もあるが、練習もただむやみやたらにボールを打てばよいというのでは能がない。自分の欠点を矯正するという明確な意志と目的がなければ、効果も生まれないのだ。

大学ゴルフ部員を変えたタイガーのレッスン

 2019年、日本初のPGAツアー競技が千葉で開催された。そこで松山英樹やローリー・マキロイの追撃を振り切って優勝したのは、中年になったタイガー・ウッズだった。

 その来日時、タイガーがある大学の女子ゴルフ部員にレッスンしたことが話題になった。部員10名ほどがボールを打っているのをしばらく観察していたタイガーは、何かに気づいたのか次のように発言した。

 「みなさんは練習するときにターゲットを決めて打っていますか?私がウォームアップするときは、最初の3~4球は30ヤードくらいしか打ちません。そして、そのあとのショットはすべてターゲットを決めて、すべてに意味を持たせて1球ずつ打っていくんです」

 つまり、ただ漫然とボールを打つのではなく、練習とはいえショットに「意味を持たせる」のが重要だとタイガーは言う。

「右を狙う」「左を狙う」「弾道の高さを高くする・低くする」「右に曲がるボールで狙う」「左へ曲がるボールで狙う」……などなど、1球ごとに毎回異なった目的を持ってボールを打てというのだ。

 これは、スウィングのできているゴルフ部員へ向けたアドバイスなので、ややレベルが高いかもしれない。しかし、アベレージゴルファーでも、自分の力量の範囲で試してみる価値はあると思う。

 タイガーのレッスンでは、まず左からのフェードボールを2球、次に右からのドローボールを2球打つように指示した。すると、部員たちが真剣な表情に一変した。球筋をコントロールしようと意識したので、セットアップの段階から緊張感が出るようになったのだ。