最初は2球ずつだったが、次にはフェードで1球とドローで1球に、その次には高いドローで1球と低いフェードで1球、さらに高いフェードで1球と低いドローで1球、という具合にタイガーはだんだんと難易度を上げて指示を出した。

 もちろん難易度が高いので、ゴルフ部員たちといえども、すべてのミッションをクリアできるわけではない。それでも、1球ごとに課題を変えることで緊張感が増し、練習の質が格段に高まるのだ。

 このように緊張感を持って、ボールをなんとかコントロールしようと意識して打たれた1球は、漫然と何も考えずに打った10球よりも、相当質の高い練習になったはずだ。

 タイガーの説明では、「これでやっと練習の意義が生まれてきましたね。バランスよく練習する、とはこういうことです。(1球ごとに)すべて意味があって、何かしらコントロールしようという意識がありますよね。私は練習するとき、このようにバランスをとりながらすべてのショットに意味を持たせて練習しています。すると、体のバランスもそれほど崩れることはありません」とのことだ。

 最後に、1球目は少し力を抜いた軽いスウィングで、2球目はマン振りのフルショットで打たせ、タイガーのレッスンは終了した。

疲れてからの練習にも意味がある

 一般ゴルファーには、このような練習メニューは難しいと思われるかもしれない。しかし、自分のできそうな範囲で、なんとかボールをコントロールしようとしなければ、いつまでたってもできるようにならないのもまた事実だ。

 これらの課題のうち、ひとつでもクリアできるようになれば、その人のゴルフはひとつレベルが上がるだろう。すべてはできなくとも、そうやって練習することで、上達の可能性が生まれるのだ。

 漫然と単調に打っているだけでは、筋力アップにはなるかもしれないが、実戦で使える練習にはならないだろう。筋力アップやスウィング作りなら、素振りのほうが効果は高い。

 実際にコースでスウィングするときのことを考えてみると、そのホールのレイアウトやアンジュレーション、風の影響などに配慮してターゲットを決め、どのような球筋で打つのかも決めて、緊張感を持ってショットするだろう。練習場であっても、コースに出たときと同じように考えないと、実戦で使えるショットにはならないのだ。

 タイガーのレッスンで最後に行った、軽く振るのとマン振りの打ち分けなどは、実戦でとても効果があるに違いない。意識して軽く振ることでさえも、練習していないと急にできるものではないからだ。

 ジェフリー・カズンズの言葉にも同様の意味があると思う。「新鮮で十分に思慮とコンセントレーションを持った1時間の練習」とは、タイガーがレッスンしたような練習をいうのだろう。

 カズンズは「疲労したときの練習の10倍も効果がある」と続けて、疲労してから練習しても意味がないように言っているが、私はそうでもないと思う。

 最初は腕力に任せて振ることができるが、疲れ切ってしまうと腕力だけではクラブが振れなくなり、体の回転やフットワークなど体全体を使うようになる。このときのスウィングは、再現性の高いよいスウィングであるはずだ。

 だから、重いバットなどでスウィングして腕の筋肉を疲れ切った状態にしてからゴルフクラブで打つというのも、それはそれで意味のある練習になると思う。

 いずれにせよ、せっかく練習するなら、賢明な練習をしたいものだ。1球ごとに意味を持たせ、テーマを決めて練習することで、効果は相当高まるだろう。