日産には日本のEVの先導役を果たした「リーフ」がある。発売から10年間で50万台を売った。近年は売り上げを伸ばしているが、残念ながらEVのシェアを大きく伸ばすだけの力はなかった。

 日産が2010年にEV「リーフ」を発売して以来、これまで日本では大きなEVブームが起きたとはいえない。2018年11月に東京地検特捜部に逮捕されるまで日産のトップだったカルロス・ゴーン氏もリーフの売り上げに満足したことはなかった。「日産1社だけではEV市場はつくれない。他社がEVの市場投入に追随してくれればいいのだが」と社内では漏らしていたという。

 EVはリチウムイオン電池が登場して以来、使い勝手が良くなったのは事実だが、まだ充電時間の長さや航続距離に不便を感じる消費者はいる。日産以外の日本メーカーは「EVは消費者が受け入れてくれる利便性をまだ実現できていない。市場投入は時期尚早だ」と、これまでは判断していた。

EVが普及する条件とは

 そのため国内市場には、EVといえば高額所得者層をターゲットにする米国テスラのEVかリーフしかなかった。国内のEV市場は多くの選択肢がない状況だった。是が非でも欲しい商品なら選択肢が少なくても買うが、そうでなければ消費者は購入をためらう。

 自動車の場合は選択肢が少ないのは致命的だ。「コンパクトなクルマに乗りたい」「SUVタイプがいい!」「家族でレジャーにいけるワンボックスタイプがほしい」などとそれぞれの好みや用途でクルマを選ぶ。

 それなのにEVだと手が届きそうなのは「リーフ」しかない状態ならば、リーフのデザイン、大きさに満足する人は買うが、そうでない人は躊躇するだろう。

 HVの歴史を振り返っても同じような経緯をたどっている。1997年に発売されたプリウスは2005年に年間販売が100万台を超えた。100万台を売るのに約8年かかったが、その後は一気に販売台数を伸ばし、2020年には1500万台に達した。この間、プリウス以外にもHVシステムを導入し、HVの選択肢が広がったことで、市場のニーズを徐々につかむことができたのだ。