『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』20万部を突破! 本書には東京大学教授の柳川範之氏「著者の知識が圧倒的」独立研究者の山口周氏「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せ、ビジネスマンから大学生まで多くの人がSNSで勉強法を公開するなど、話題になっています。
この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

「自分の頭で考えろ!」という人が知らないもっとシンプルな2つの問題解決法Photo: Adobe Stock

[質問]
思考の仕方がわかりません。

 曖昧な質問で恐縮ですが、どうすれば良い思考の仕方が身につくのでしょうか。たとえば、仕事でプロジェクトに取り組むとき、どう段取りを組めば、誰にどう動いてもらえばよいかわかりません。あるいは、何かプログラムを書くとき、書くべきコードが明確になるまでに非常に時間を要します。

 問題を投げかけられても、ゆっくり咀嚼しなければ理解もできず、理解できても何の考えも浮かばず、どう解決すればよいかわかりません。仕事や勉強のあらゆる場面で、他の人たちがうまく思考して問題を解決していく様を目にし、自分の不出来さに落ち込みます。どうすればこの状態から、少しでも前に進めるでしょうか。

自分一人で「思考」する前にやれることがあります

[読書猿の回答]
 大変失礼ながら、あなたのご質問は「曖昧」というよりも「見当違い」に類するものだと思います。

 おそらく、「考えること」に強く苦手意識をお持ちである反動で、「思考法」なるものを理想化しておられる(夢を見ておられる)のではないかと感じます。

 うまく問題を解いている(ようにあなたに見える)人たちは、ただうまく「思考」しているだけではありません。むしろほとんどの場合、彼らは多くを考えることなく事を運んでいるのだと思います。あなたの注意と関心は、あまりに(それ自体は目に見えない)「思考」に注がれているので、うまく問題を解いている人たちが実際に何をやっているか、特に周囲とどんなやり取りをしているかを見逃しているのではないかと危惧します。

 たとえば、「仕事でプロジェクトに取り組むとき、どう段取りを組めば、誰にどう動いてもらえばよいかわからない」のは、あなたが「よい思考の仕方」を知らないから(正しい思考でプロジェクト運営の最適解を分析によって導き出せないから)ではなく、これまで仕事の場で他のプロジェクトがどのように取り組まれてきたか、誰にどんな役割が割り振られ、どんな風にお互いの行動を調整しながら事を進めてきたかを知らないからではないでしょうか。

 あるいは「何かプログラムを書くとき、書くべきコードが明確になるまでに非常に時間を要する」についても、思考に頼る割合が少ないほどプログラムを書く速度は高まる(多くは質も向上する)と思います。プログラミングにおいて、自分で考えること(思考)を代替してくれるものには、「既存の問題解決」と「実験」があります。

「既存の問題解決」には、よく知られたアルゴリズムのように自分で実装する必要のあるものから、モジュールやライブラリのように誰かがすぐ使えるように実装してくれているものまで様々なものがあります。これらを使うには、ジョージ・ポリアが『いかにして問題を解くか』で挙げていたあの質問「これと似た問題はないか?」が導きとなるでしょう。

「実験」は、プログラマーにとっては強力な武器です。自分ひとりで考えなくても、コンピュータという飽きずに付き合ってくれる(しかもヒトがやるより高速です)相棒が目の前にいるからです。

「既存の問題解決」にしろ「実験」にしろ、うまく活用するには、元の問題を取り回しのしやすいサイズに小さく分解する必要があるでしょう。一般に、問題を小さく分けた方が「これと似た問題はないか?」という問いの答えは見つかりやすく、また小さくシンプルな形に分けられると「実験」もしやすくなります。

 さて、私達が「思考」と呼ぶものの多くは「自分の中で行われる対話/問答」です。言い換えれば、これまで周囲の人と行ってきた対話や問答の経験がベースとなり、それを内化し自分一人でも対話/問答がすることを「自分で考える」と呼んでいるのです。

 この観点からみると、ご質問の中で最も重要な箇所は「問題を投げかけられても~」以下の部分だと思います。

 あなたは「自分はうまく思考することができないから、うまく問答することができない」と考えておられるのかもしれませんが、実際は逆である可能性があります。

 問答は、対話と同じく、それに参加する人たちの共同作業です。投げかけられた問題がすぐに理解できないなら、相手に質問してもいいし、問題を小さく分割したり、「これと似た問題はないか?」の答えを探すのを手伝ってもらってもいい。

 咀嚼も解決策づくりも、自分だけでやらなくても(本当は)よいはずなのです。そして、こうした問答という共同作業の経験が、そのまま「一人で考える」ことのレベルを底上げする知的財産となります。

 それでも自分だけで考えなくてはならない場面はあると思います。自問自答に使える、シンプルな問いを4つ、提案いたします。

Q1.何が実現すればいいか(ゴール)
Q2.現状使えるものはなにか(前提条件)
Q3.ゴール/条件を分けることができないか(分割)
Q4.似ているものはないか?(アナロジー)