戦後日本の発展は五輪開催によるものではなかった
マスコミに勘違いさせられているだけ

「さっきから東京五輪を悪者にしているが、日本が東京五輪によって大きな発展を遂げたのは事実だろ、それを無視するのか」と食い下がる人もいるかもしれないが、残念ながらそれはまったく事実ではない。

「アジア初だった64年東京大会 高度成長の礎築く」(日本経済新聞2013年9月8日)のような報道をマスコミがいまだにするので勘違いをしている人も多いが、日本の戦後の高度成長は基本的に「人口増」が大きな要因である。

 今、中国のGDPが成長をしていることからもわかるように、ある程度の経済規模になった国のGDPは人口の大きさに比例する。

 実際、主要先進国のGDPランキングの並びは、人口3億2000万人のアメリカ、人口1億2000万人の日本、そして8300万人のドイツという具合に、きれいに人口と比例している。戦後、日本の人口は右肩上りで増え続けて1967年には1億人を突破し、同じタイミングでGDPもドイツを抜いて世界2位になった。この人口増の勢いの時に東京五輪はたまたま重なっただけだ。

 五輪が公共事業やインフラ整備の背中を押したのは事実だが、日本経済成長のエンジンだったわけではない。

 むしろ、多くの五輪開催国が「五輪不況」に陥ったように、日本でも五輪を境に成長にブレーキがかかる。五輪開催の翌年度、戦後初の赤字国債が発行され、ここを起点にして日本の債務残高は先進国の中で最も高い水準となっていくのだ。

「五輪で日本が元気になった」というのが幻想以外の何物でもないことは、当時の日本人の多くも感じていた。先ほどの「東京オリンピック」によれば、閉幕から2カ月後に行った調査で、「五輪は景気を維持するのに大変役立ったと思いますか」という質問に対して、「そうだ」と回答したのが31.7%なのに対して、「そうではない」は59.2%だった。

「日本が元気になる」などと大それたものではないということは、庶民はよくわかっていたのだ。

 このような歴史を振り返れば、マスコミの「東京五輪やっぱり最高!」という手のひら返しにかなり警戒すべきだということがわかっていただけだろう。冒頭のデーブ・スペクター氏は既に「五輪」が日本のイメージダウンになっていると指摘している。

<今も、海外メディアが五輪関連で報じるとしたらワクチンの遅れなどトラブルばかり。海外の人はみんなあきれている。1年延期になったために、しかも強引に開催することになったために、日本のイメージダウンになっている。あれ?日本はあんなに経済大国になって何でも一生懸命賢くやってきたのに、なんでワクチン接種が進まなくて病床が逼迫するのって。みんな驚いている。>(ニューズウィーク 6月9日

 こんな調子で世界がシラけている中で、日本人が「見たか、これが日本の底力だ!」とか「日本人を勇気づけてくれました」と五輪でお祭り騒ぎになったらどうか。イメージダウンというより、もはや完全に「恥」ではないか。

 果たして、日本人はマスコミによる「東京五輪やっぱり最高!」という世論誘導にのっかって、1964年の時と同じく、ここまで噴出した様々な問題を闇に葬ってしまうのか。それとも今回は、マスコミに踊らされることなく、「正気」を保つことができるのか。注目したい。

(ノンフィクションライター 窪田順生)