エンジンは通常カタログモデルと共通。“究極”を目指したとはいえ“64psまで”という最高出力の自主規制の影響で、エンジン回転数の上昇に伴ってターボブースト圧が早期に頭打ちを迎える。“どうにも実力を出し切っていない”という感触を伴うのは、相変わらず残念。

 一方、手首の動きで決まるシフトフィールはいかにも“スポーツカーを操っている”という感覚だし、ブレーキは連続で周回を重ねてもペダルタッチと制動感が変わらないタフネスぶり。“本格スポーツカー”ならではのゴキゲンなテイストをたっぷり味わえた。

 ハンドリングは素晴らしい。ミッドシップながらもリアの接地感がすこぶる高く、コーナー頂点でさらにステアリングを切りこんでいく気になる。ここも、“本格度”の高さにつながっている。コースには意図的に散水ポイントが設定されていたが、ウエット路面でも危機感は少なかった。このあたりが、単なるドレスアップモデルに留まらないモデューロXの真髄だ。

 残念なことに、モデューロXバージョンZだけでなく、S660全体が生産終了の報が流れた後に注文が殺到。たちまちにして、受注上限台数に達してしまったという。多くのユーザーが“もうこんなモデルは現れないのでは”という思いで、居ても立っても居られずにオーダーしたのだろう。2021年は「F1参戦終了」とともに、まだ上半期にして残念なニュースが続いてしまった。

(CAR and DRIVER編集部 報告/河村康彦 写真/小久保昭彦)

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