私が直接面識のある人物の中では、NTTで役員を務めた長谷川寿彦さんが思い出されます。長谷川さんはデータ通信畑を歩き、1985年のNTT民営化と同時に最年少取締役として抜擢されましたが、リクルート事件で退任された人物です。

 リクルート事件の関係者と聞くと一般的な印象はあまり良くないかもしれませんが、経歴から分かる通り、当時の日本の情報化の中心にいた方ですから非常に優秀で、かつ広範かつ強力な人脈をお持ちでした。

 相談に対するお答えは正鵠(せいこく)を射ているし、豊富なネットワークを持っていてとても頼りになるということで、NTTを離れてからもいろいろな会社から「手伝ってほしい」と声がかかっていました。長谷川さんが65歳くらいのときにお会いした際、無料も含めた顧問先は二けたもあったと記憶しています。

「NTTで同世代の連中はみんなお役御免になり、悠々自適でヒマになっているが、私は丸山君のような若い人たちと毎日仕事ができて幸せだよ」

 そうおっしゃっていたのをよく覚えています。

60代以降も活躍し続けるには
「人的ネットワーク」が重要

 まだ50代ですが、これまで築き上げたネットワークと専門性を生かして仕事をされている人だと実感する方もいます。マイクロソフトやグーグルで活躍された後、テクノロジーで企業や社会の変革を支援するTablyを設立した及川卓也さんです。当社でも顧問をお願いしています。

 最先端のプロダクトマネジメントを熟知している及川さんは、当社以外でもさまざまな企業でDXの推進やデジタル組織の作り方についてアドバイスをしたり、スタートアップで商品づくりに携わったりしています。及川さんの高い専門性に対し、多くの企業が期待を寄せ、頼りにしているのです。

 長谷川さんや及川さんのケースを見ていくと、ご自身の専門分野でトップクラスの実績があることと、幅広い人的ネットワークを持っていることがわかります。ただし、長谷川さんや及川さんは突出してすごい実績を持っているからこそおのずと多くの声がかかり、ネットワークが広がっていくわけです。まねができる人は限られます。

 では、業界の中で突出するほどにはすごくない、大多数の普通の人はどうすればよいでしょうか。

 一つは30代や40代のうちから人的ネットワークをつくり、それなりにあてにされ、何かあると声がかかるような存在になることです。私は「お座敷がかかる」と言っていますが、ある程度の年齢になったら豊かなネットワークから社内外を問わず相談を持ち掛けられたり、仕事のオファーをもらったりして忙しい状態になっているのが理想です。

 人的ネットワークを広げるには、自分からいろいろなところへ積極的に足を運ぶことです。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、現在は物理的に足を運べなくても、SNSやネット上でアクセスすることも可能です。

 足を運ぶ先は興味のあるテーマに関する勉強会やセミナー、学び直しのための学校、趣味の領域などなど、自分の関心を軸に据えれば話も合い、その後の広がりにもつながっていくでしょう。あまり気乗りはしなくても、必要があると思ったら重い腰を上げて動くべきです。年齢を重ねるほど腰が重くなりがちなので、これは意識的にやる必要があります。