「ステークホルダー資本主義」という言葉には心地良い響きがある。企業は株主の利益だけを重視するのではなく、顧客やサプライヤー、従業員、投資家、コミュニティーといった「すべての」ステークホルダー(利害関係者)のために運営されるべき、という考え方だ。だが企業経営者なら、悩ましい問題に必然的に直面することになる。実際にそれをどう行えばいいのか、という問題だ。ステークホルダーの利害の「バランス」を取るというのは聞こえはいいが、結局、実践的でないばかりか、最悪の場合は不誠実になる。企業のリーダーはある時点で、不機嫌にさせる相手、耳を傾ける相手を選ばなくてはならない。顧客として石油会社を受け入れるのはもうやめるべきだと主張する従業員に気を配るのか。それとも、人権問題を理由に主要なサプライヤーを切るよう求める投資家に、か。あるいは、市場の水準を上回る賃上げを求めてやって来るコミュニティーの指導者に、か。