プロダクトマネジャーには
「すきま」がある人の方が向いている

 ここまでプロダクトマネジャーが抑えておくべき領域、必要なスキルなどについて解説してきました。プロダクトマネジャーは“異業種格闘技”を戦うチャンピオンのような存在です。ともすれば、スーパーマンのような人であることが求められているように見えるかもしれません。

 実際に、全方面で高いスキルを持ち、あらゆる領域の業務をマッチョにこなすタイプのプロダクトマネジャーもいることは確かです。ただ、そうしたプロダクトマネジャーが手がけるプロダクトが、必ずしもうまくいくとは限りません。リーダーが優秀すぎるがゆえに、チームメンバーがそれに頼り切りになってしまい、チームとして機能しないという場合があるからです。

 先ほど紹介したW型の人材モデルでは、プロダクトマネジャーのスキルの深掘りは「ある程度」でよいと説明しました。それは全部のスキルを自分で埋める必要はなく、チームメンバーが埋める方がよいということでもあるのです。プロダクトマネジャーには「すきま」「余白」を残した人の方が向いている、ともいえます。

 企業としてプロダクトマネジャーを育成、または採用しようという経営者や人事担当者にとっては、プロダクトマネジャーに向いている人の見極めは、なかなか難しいことかもしれません。まずは、組織にどのようなプロダクトマネジャーが必要かを明確にすることから始めましょう。

 プロダクトマネジャーに向いている人を見極めるため、スキルとポテンシャルを測定するアセスメントサービスもあります。パーソルグループ傘下のパーソルイノベーションと、AIスタートアップのエクサウィザーズ、私が代表を務めるTablyの3社でも、プロダクトマネジャーのアセスメントサービスを共同開発・提供しています。スキル・知識やプロダクトマネジャーとしての素養のほか、プロダクトのステージによる向き不向き、リーダーシップスタイルなどが可視化できるようになっています。

 求められるプロダクトマネジャーのスキルセットは、プロダクトのステージによっても変わります。何もないところからプロダクトを生み出す「0→1」のステージではイノベーター系、初期プロダクトを育てる「1→10」のステージではグロース系、といった具合です。

 具体的に育成・採用を進める際は、組織の人材ポートフォリオを作成し、組織内でプロダクトマネジャーに必要なスキルと照らし合わせて、不足しているスキルを洗い出します。その上で足りないスキルを埋めるようなスキルセットを定義し、そのポジションのジョブディスクリプション(職務記述書)をつくって登用・採用を進めるとよいでしょう。

優秀なプロダクトマネジャーの条件、「W型人材」になるための秘訣

 この「現状で組織にないスキルを埋める」という考え方は、組織の多様性、ダイバーシティの確保にもつながっていきます。

 こうした人材ポートフォリオ、スキルマップの考え方は、実は以前から存在していて、製造業などで使われてきました。製造業というと、採用した人材を同じように研修・育成するイメージがあるかもしれませんが、専門性も強い業界です。メンバーの専門性をしっかり高めつつ、組織として持っていないスキルは誰かが身に付けて補完し、「誰々でなければこの仕事はできない」といった属人性を排除するということが、現場ではずっと行われてきました。

 ところが、日本でもホワイトカラーで働く人が増えたときに、これらのノウハウがうまく現場からオフィスへ移転できなかったのではないかという気がします。アセスメントサービスなどのツールを使うかどうかはさておき、スキルマップで自社のポートフォリオを可視化するという考え方は、現在の組織においても価値あるものだと思います。

(クライス&カンパニー顧問/Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)