6月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で2023年への利上げ前倒しを示唆したFRB(米連邦準備制度理事会)。目標である2%を超えるインフレ率を容認する姿勢を改めたようだ。通常、利上げ示唆で上昇することが多い長期金利は今回、低下した。それは、長期でのインフレ抑制を市場が織り込んだからである。(SMBC日興証券 チーフ為替・外債ストラテジスト 野地 慎)
3月時点で24年まで利上げなしを
示唆していたFOMC
バイデン政権が講じた「失業保険の上乗せ」政策が多くの州で9月末まで延長されるなか、低賃金労働者の就労意欲が弱まり、その結果、米雇用統計における雇用者数の増加ペースが鈍化するとの見通しが強まった。
労働市場の改善がFRB(米連邦準備制度理事会)の利上げ時期前倒しに寄与する可能性は当面の間低下した格好だ。他方、市場参加者が注目していたのが「一時的」とされてきた高いインフレ率に対するFRBの見解である。
コロナ禍で経済が止まっていた1年前に対し、足元ではワクチン接種の進展などから、むしろ景気が過熱する環境にあり、前年比で見た場合の米国消費者物価は高騰に近い状況が続いている。つまり、前年比ベースの高い物価上昇率には特殊要因が影響を及ぼしているケースが多く、インフレ率高騰を受けてもFRBの利上げ時期前倒しはないものと予想されていた。
特にFRBが平均インフレ率目標を採用したことは重要であり、米国の物価上昇率が平均的に2%を上回らない限りは利上げが行われないとのコミットがなされていた。利上げの引き金となる物価水準が1年平均の2%なのか、あるいはより長期の平均値なのかも示されていなかった。つまり、利上げはFRBの裁量によるところが大きくなると市場参加者は考えてきた。
3月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で11人のメンバー(18人中)が24年まで利上げなしと示唆していたのは「インフレ率や景気のいかんにかかわらず、24年まで利上げが行われないことがFOMC内で合意されていた」ことを意味すると思われていた。
結局、コロナ禍からの景気回復を確固たるものとするため、あるいは中国脅威論のなか、中国を凌駕する景気拡大を実現するためにFRBが多少のインフレ率の上振れには目をつむり、ゼロ金利政策を24年まで継続していくとのコミットを行っていたというのが市場コンセンサスだったのだが、6月のFOMCではそれが見事に裏切られた。