地元自治体の強い要望で
紀南コースが実現

 列車は8時に串本駅を出発。車窓から見える森浦湾や、王子ケ浜の景色を楽しみつつ、9時37分に終点の新宮駅に到着した。京都駅から新宮駅までの約315キロを、特急「くろしお」であれば4時間45分ほどで駆け抜けるところ、12時間22分かけて走ったことになる。この列車の魅力は、遅さにこそあるのである。

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 試乗会は下り列車のみの運行だったが、実際には翌日に上り列車も運行される。上り列車は新宮駅を12時に出発し、終点の京都駅に22時24分に到着。途中、紀伊勝浦駅や古座駅などで物販のための停車や、太地駅では地元の伝統的食文化であるクジラの竜田揚げ、串本駅では生カツオの刺し身が提供されるなど、夜行とは違った楽しみがある。乗車の際は是非、南紀で1泊して、上り列車にも乗ってほしい。

「紀南コース」の実現には、地元自治体の強い要望があったという。そもそもJR西日本は「WEST EXPRESS 銀河」の運行開始当初、紀南コースでの運行は想定していなかったそうだ。しかし、運行開始後に和歌山県と新宮市など紀南7市町村が地域振興につなげようと熱烈な誘致活動を展開。協力して魅力的なおもてなしを取りそろえることで運行が実現したというわけだ。

 次なる一手は「四国方面の運行に向けて協議中」だという。どんな新しい旅が生まれるのか、また、JR東日本など追随する動きは出ないのか、今後の展開に期待したい。