歴史的な大激戦となった2012年アメリカ大統領選は、民主党オバマ大統領の勝利で幕を閉じた。しかし、同時に行われた連邦議会選挙では、上院は民主党が過半数を維持できたものの、下院は共和党が制する結果となった。こうした上院下院のねじれ状態は、厳しい雇用情勢や低迷する景気、深刻な財政問題に立ち向かうオバマ大統領にどのような影響を与えるか。また外交面では大きな課題となっている「中東不安定化」「中国の台頭」にどう対応するのか。東京大学法学部政治学研究科・藤原帰一教授に、今回オバマ大統領が激戦を制した理由とそれを踏まえた上での今後の経済・外交への影響について話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子)
「不景気なら野党が有利」という
定説を覆しオバマが勝った理由
――今回の大統領選におけるオバマ大統領の勝因は?
東京大学法学部法学政治学研究科教授。1956年生まれ。専門は国際政治、東南アジア政治。東京大学法学部卒業後、同大学院単位取得中退。その間に、フルブライト奨学生として、米国イェール大学大学院に留学。東京大学社会科学研究所助教授などを経て、99年より現職。著書に『平和のリアリズム』(岩波書店、2005年石橋湛山賞受賞)など
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オバマ大統領に有利な条件がひとつあったとすれば、「人口構成」だろう。彼を支持する層はヒスパニック系・アフリカ系・アジア系などの非白人系やユダヤ系が中心で、今回の得票のうち45%は白人以外から獲得した。近年アメリカでこうした非白人系の人口が増えており、それが勝因の1つといえる。顕著な影響が見られたのがラスベガスを有するネバダ州だ。元々共和党色の強い土地であったが、ヒスパニックの人口が増加し、民主党が制することができた。また、オバマ大統領が女性の支持を得た点も大きい。
最大の謎は、一般的に経済状況が悪化しているときには与党が票を失うのが鉄則にもかかわらず、オバマ大統領が勝利したことだ。4年前のオバマ大統領就任時と比較しても、今は決して芳しい経済状況とはいえない。現在の情勢では本来なら共和党が有利になり、ロムニー候補が勝利したはずだ。しかし、世論調査では、「(今、経済は以前より)良くなっている」と答える人が「悪くなっている」よりも多かった。「経済政策についてオバマ大統領とロムニー候補のどちらが信頼できるか」という世論調査の結果も拮抗している。経済情勢が良いか悪いかではなく、良くなりつつあるかどうかが判断の基準となり、「良くなっている」という観測によって、経済状況はオバマ大統領にそれほど不利に働かなかった。そのために、経済情勢が悪いにもかかわらず現職大統領が再選されるという珍しい結果が生まれた。
また、アメリカは有権者が支持政党に登録(政党に登録しない有権者は「インディペンデント」)をするが、現在、民主党に登録する有権者数が共和党をかなり上回っており、基礎票の段階で民主党が有利だ。激戦州に絞った選挙戦術も勝利へ有利に働いた。
結局、ロムニー候補が勢力を挽回することができたのは、10月4日の第1回テレビ討論会の1度だけ。彼はこのとき、中道寄りにイメージを変え、「ミドルクラス」という言葉を何度も連発することで、支持率を4ポイント以上盛り返し、女性票も獲得できた。だが、投票日までに追い上げることはできなかった。