「ガバナンス・コード」改訂で問い直すべき企業経営の原点

2021年6月11日、コーポレートガバナンス・コードの改訂版が施行された。サステナビリティ、取締役会の機能発揮、ダイバーシティなどの企業課題への対応において、ワールドクラス級の水準を要求しているが、世界の常識からすれば日本の状況は後れを取っており、「稼ぐ力」の向上を掲げたガバナンス改革は道半ばにすぎない。世界水準の経営を熟知する前デュポン副社長の橋本勝則氏に、コーポレートガバナンスの本質を聞く。(マネジメント・コンサルタント 日置圭介)

世界で戦うなら、世界水準を当たり前にする

日置圭介  コーポレートガバナンス・コード(CGコード)は第2次安倍政権による「コーポレートガバナンス改革」の一環として、企業の収益力向上を目的に、2015年に策定されました。2018年の1回目の改訂に次いで2回目の改訂となりますが、本当に日本企業の稼ぐ力の強化につながるものとなっているのでしょうか。橋本さんは今回の改訂内容をどのように評価されますか

橋本勝則 CGコードが求めていることは、グローバル市場のプレーヤーにとっては当たり前のことばかりです(図表参照)。

 デュポンやGEといったワールドクラスにとっては、特に目新しさはありません。裏返せば、多くの日本企業の経営がその水準に達していなかった、ということになるわけで、今回の改訂内容には、その「未達」部分を強化する狙いが見て取れます。

橋本勝則橋本勝則(はしもと・かつのり)
東芝 取締役、前デュポン 取締役副社長(CFO)。慶應義塾大学商学部卒業、デラウェア大学修士課程修了(MBA)。YKKの英国CFO等を経て、1990年デュポン入社。米国勤務を経て2001年に財務部長、09年より取締役副社長としてダウケミカルとの合併・3社分割、グループのガバナンス等を担当した。東京都立大学大学院経営学研究科特任教授。共著に『ワールドクラスの経営』がある。

 たとえば、取締役会の機能発揮として、東京証券取引所に新たに誕生するプライム市場の上場企業に対し、取締役会の3分の1以上を独立社外取締役にすることが求められています。しかし、取締役会は基本的に社外の人間で構成されるのがワールドクラスの常識です。業務を行う執行と、そのお目付役である監督の機能をきっちり分けて、経営者が暴走しないようにする。そうした機能分化の経営システムは、経済的にも社会的にも企業が価値を出し続けていくために必須です。グローバル組織の頂点にこうした仕組みがあって、初めて企業経営の健全性が担保されることを、欧米のワールドクラスは過去の失敗や試行錯誤から得た教訓に学びながら、実践してきたわけです。

日置  コーポレートガバナンス改革には、海外からの投資を広く呼び込もうという狙いもありました。そうである以上、コード自体はある意味「ローカルルール」ではありますが、外国人投資家が当たり前と考える「世界水準」が求められるのは当然です。ただ、いきなり振り切るのは、社内外の人材不足などがあり難しいので、ステップ・バイ・ステップで移行中と認識しています。少し好意的な見立てではありますが。

橋本 そうした流れ自体はよいのですが、心配なのは、形だけ整えて「やっている」感を出そうとする動きが広がらないかという点です。そうなると、本気で取り組む企業も一緒くたにされて、一気にしらけムードが広がってしまいます。

日置 統合報告書でも似たような状況が見られますね。株主はもちろんのこと、経営幹部にも外国人の占める割合が高くなっている企業であれば、コーポレートガバナンス強化は死活問題でしょう。