取締役を「トレーニングする」ことへの違和感

橋本 プライム市場上場企業に対して、独立社外取締役を過半数にすることは、今回の改訂では「推奨」に止まりましたが、将来的に義務化される可能性は高いでしょう。

日置 プライム市場の上場企業は、1500社(5月中旬の推計)を上回るようですが、外国人株主比率が高く、海外の機関投資家等とガチに対話していくような企業ばかりではないでしょう。ビジネスの規模感のみならず海外への展開度・知名度などを勘案すると、もしかするとその10分の1くらいが妥当なのかもしれません。区分の意味するところは「格」ではなく「目的」のはずですので、そういう意味では、より実情に即した区分のあり方をこれからも模索すべきではないでしょうか。人口減少がいよいよ加速する段階に入るとさまざまな「再編」も起こってきますので。そういう視点でコードの中身を掘り下げて見ていくと、気になる点がちらほらあります。

橋本 一例をあげると、CGコードの第4章「取締役等の責務」の「原則4-14」にある、取締役・監査役を「トレーニング」するという表現は、奇妙であり、かねてから違和感があります。好意的に読めば、業界や企業独自の状況にうとい社外取締役に、十分な情報提供と説明をせよ、ということなのでしょうが、それをトレーニングとすると、緊張感が薄れ、独立性に影響するおそれもあります。監督してもらう側の企業が取締役をトレーニングするという表現は、本来あるべき実態にそぐわないものです。

日置 確かに、日本企業にはモニタリングボードというよりマネジメントボードに近い取締役会もあるので、多くの経営判断を取締役会に諮るケースも珍しくありません。その際、社外の人間に自社の事業や技術などについてこと細かに情報提供をするのも、どうせわからないんだから面倒だという話になりがちです。こういう状況を鑑みて、情報提供や説明の重要さを指摘したのでしょう。とはいえ、コードの一語一句を重く受け止める人もいるので、表現は慎重にすべきですね。

橋本 経営経験のない社外取締役が多く含まれることも影響しているのでしょう。業界や個別企業の事情のみならず、経営に関する知識も十分でないとすれば、文字どおり学んでいただく必要も出てきます。

 だからこそ今回の改訂では、取締役の知識、経験、能力を一覧化したスキルマトリックスを作成するなどしたうえで、他社での経営経験をもつ人を社外取締役に入れなさいと明記している。これは、とてもよいことです。

日置 そうですね。デモグラフィ型の多様性とあわせて、必要なスキルを取締役会全体としてカバーして、タスク型のダイバーシティが備わっているかどうかを整理するために、スキルマトリックスはわかりやすい手段です。

 一方で、表をつくること自体が目的化する可能性があります。そうならないためにも、社外取締役の選任は、スキルだけでなく企業理念や戦略を理解していること、そして自社のコンテクストにあっていることを重視しなければなりません。