新旧BRZの違い
基本構造継承でも大きな差

 1台目は、初代のBRZのAT(オートマチック・トランスミッション)車。まだ曇り空で、路面はドライ状態だった。

 9年前に乗った初代プロトタイプでの体験を呼び起こし、モデルライフ終盤であるこのモデルと比べてみると、足元のフロアの振動が穏やかになるなど、乗り味全体での雑味がかなり軽減されている。低速コーナーでの旋回性も良く、スポーツカーとして素質の良さを再認識した。ただ、シートのホールディングス性についてはサーキット走行では多少の物足りなさを感じた。

 さて、2台目は新型BRZのAT車だ。走り出す前に雨が小降りになったと思ったら一気に激しく降り出した。その中でまず感じた初代との違いは、大きく二つある。

新型BRZ雨が強まるなかでも、新型BRZは走行中も安心感があった 写真提供:スバル

 ひとつは、カッチリとしたボディ感だ。外観サイズでは全長で25mm増、全幅が変わらず、全高は10mm減と変化は少ない。車体も基本的に初代を踏襲しているが、近年スバルが採用しているSGP(スバルグローバルプラットフォーム)でのノウハウから、スバルでいうインナーボディ化を行い、フロントストラット軸の曲げ剛性が60%増、車体全体のネジリ剛性が50%増、そしてリアのサブフレーム剛性が70%増となっていることが、ボディ全体からのカッチリ感を生む。

 また、基本設計の時点では衝突安全やその他の安全機能装備などにより70kg強の重量増となったが、スバルとして初めて採用したルーフパネルのアルミ化などで軽量化を図り、最終的に初代に対する重量増分をほぼ相殺している。

 もうひとつは、エンジンのパワー&トルクが厚みを増したことだ。エンジン排気量が2リッターから2.4リッターとなったスバル水平対向四気筒エンジンは、最大出力が約28馬力、また最大トルクは38Nm向上している。

 BRZ開発責任者の井上正彦氏は、試乗後の筆者の質問に対し、BRZ需要が多いアメリカのユーザーから新型車へ最も多かったリクエストは「モア パワー」だったと言い切る。

スバル製水平対向四気筒エンジンアメリカを含めたグローバルな市場からの「モア パワー」の声を反映し、エンジン排気量を2リッターから2.4リッターに拡大したスバル製水平対向四気筒エンジン Photo by Kenji Momota

 雨が強まる中、初代と比べると明らかにエンジン音が違うことを意識する。アクティブサウンドコントロールと称し、エンジン回転数が上がるほど音の4次、6次、さらに8次での音質を強調している。

 この点について井上氏は「ギミックではないかとの指摘があるかもしれないが、走りのたのしさのためには必要不可欠だと判断した」という。

 次いで、3台目は新型BRZのMT(マニュアル)車だ。AT車と比べて、エンジンのパワーやトルクの出方を自分でコントロールできるため、エンジン特性やエンジン音の変化が初代とどう違うのかがよく分かる。

 土砂降りとなり、起伏があるコーナーのあちらこちらに“川”ができ、そこを通過する際にクルマ全体が斜め横方向に大きく飛ばされる。だが、初代と同じくBRZの基本コンセプトである四輪駆動車のような前後バランスの良さと、ミシュランパイロットスポーツ4の排水性やドライバーの意思を伝える優れたコントロール性能の良さから、路面からドライバーへのフィードバックが途切れることはなく、安心して走行を続けることができた。

 スバルのサスペンション開発者は「雪上走行で新型BRZの良さが発揮される」とまで言うほど、安定性が高いFR(フロントエンジン・リア駆動)車である。

もっと攻めたくなったGR 86
2モデルは「別のクルマ」

 続けて、GR 86のAT車に乗った。

 雨脚はさらに強くなり、まさにゲリラ豪雨状態だ。

 そうした中、GR 86を走り出して100mから200mほど、ピットロード先の大きな水たまりを超えて第1コーナーに入りながら「あれ、結構違うな」とBRZとの差を実感した。抽象的な表現だが“気持ちが整う”ような感じなのだ。

 BRZに比べて、前後スプリングのバネレートや、ショックアブソーバーの減衰特性、また前後スタビライザ―の設定などにより、GR 86はキビキビ走る方向性を強めており、こんな豪雨だと走りが不安定になるのではないかという不安があったが……。

 そんなことはまったく感じないどころか、“もっと攻めていける”という気持ちが芽生えるほど、クルマの動きが先読みしやすい。

 この話を試乗後にトヨタGR開発部門関係者にしたところ、「我々も感じている、フロントハウジングの差だろう」と指摘する。フロントホイールの内側ある大きなフロントハウジングが、BRZのアルミ製に対して、GR 86は鋳鉄製。重量比は片側で1.3kgもある。この材質の差によってステアリングを通じたドライバーへのフィードバックが違い、さらにパワーステアリングの抵抗力(重さ)もBRZとGR 86では違いを持たせている。

 またアクセルレスポンスによるパワーとトルク発生の特性の違いなど、ドライバーが2モデルから感じるさまざまな要因に違いがあり、それらが複合的に連結してそれぞれのモデルの走り味としてまとめられている。

 こうした2モデルの違いを、最後に乗ったGR 86のMT車で再確認した。

 以上のように、初代1台、そして新型4台を乗り比べての筆者としての総括は、新型GR 86と新型BRZは「別のクルマ」ということだ。スポーツカーにおいて走り味がこれだけ違うのだから、そう表現するのが妥当だと思う。

 グローバルでクルマの電動化が進む中、ピュアなエンジン車として楽しめるラストチャンスとなりそうなこの2モデル。どちらを選ぶかはユーザーの好み次第だ。