コロナ禍からの景気回復が進む中、米国をはじめとする主要各国でインフレ懸念が台頭している。これが株価崩壊をもたらしかねないとの観測もくすぶるが、米著名投資家のケン・フィッシャー氏はそうした考えを否定する。
世界的なインフレ懸念は
かなり誇張されているようだ
インフレが市場の崩壊をもたらすのは間近だろうか?いまだに低迷する日本の消費者物価を考えれば、そんな発想はばかげて聞こえるかもしれない。
だが今、世界中で評論家が悪性のインフレを懸念している。中央銀行の金融「刺激策」で、貨幣供給量が急増したからだと彼らは言う。派手な政府の財政支出――特に米国では――で経済過熱と物価急騰が生じ、これによってコロナ後の世界経済回復が無に帰すと言う者も多い。
だが、慌ててはいけない。中銀の政策は、真の貨幣創出を促していない可能性があるからだ。また、財政「刺激策」は非常に好調な成長を牽引しない。これは、日本と米国の歴史が証明している。
伝説的な経済学者ミルトン・フリードマンの有名な教えの通り、確かにインフレは常に貨幣的現象だ。多過ぎる貨幣が、少な過ぎる商品を求め、世界経済においてさまざまなモノの価格が上昇する。貨幣量急増と経済再開で鬱憤のたまった世界中の消費者による消費に拍車がかかり、インフレが既に始まったと悲観論者は主張する。
米国、欧州、英国の消費者物価指数の急上昇を見よ!と彼らは叫ぶ。あるいは、台湾のインフレ率が8年ぶりの高水準だと。だが、前年比上昇率は昨春のコロナ禍で落ち込んだ基準値による計算の幻影だ。前月比上昇率は経済再開による上昇とその需給不均衡で説明できる。つまり、短期的要因にすぎないのだ。
2020年の大規模で奇妙な中銀金融政策がインフレの誘因となってきたなら、理論上はより大きなインフレが、はるか前に起きていたはずだ。これがなぜ起きてこなかったのか。