絆創膏だけでは解決しない
日本の「住」の脆弱さ

「デモグラフィック・デザイナー」として“まちづくり”に取り組む北畠拓也さんは、一連の成り行きに対し、「課題はたくさんありますが、東京都が大規模な政策を迅速に実施することに踏み切り、運用の問題点はあるものの継続してきていることは、評価できます」という。

 きっかけは、最初の「緊急事態宣言」で東京都でのネットカフェやカラオケ店など夜間の滞在が可能な施設も休業要請の対象となり、約4000人とされる「ネットカフェ難民」が寝泊まりの場を失いかねない状況となったことだった(※1)。

 危機感を覚えた支援団体等の尽力もあり、東京都は12億円の予算を確保してビジネスホテル500室を借り上げ、「一時住宅」として提供しはじめた。充分とはいえない室数、行政の広報不足など、課題は数多い。しかし、画期的であったことは確かだ。

「1年以上が経過した今、この政策自体は『良かった』と思います。しかし、住宅セーフティネットの基盤は脆弱なままです。応急処置的な対応だけでは、本来の解決には向かいません」(北畠さん)

 コロナ禍が深刻化する中、東京都によるビジネスホテルの借り上げは、当初、7月12日で終了することとされた。次の行き先を確保できない人々は、野宿となる可能性が高かった。

「酷暑の中で、そういう判断をすることは、良くないと思います。野宿を、あまりにも軽く見ているのではないでしょうか」(北畠さん)

 誰かが野宿せざるを得なくなること自体が、国による人権侵害かもしれない。とはいえ、ビジネスホテルは終の棲家にはなりえない。

「ビジネスホテルから居宅への移行の見通し、“出口”が見えにくいところは、問題ではないかと思います」(北畠さん)

 借り上げビジネスホテルを利用するルートは、都内の各自治体の福祉相談の窓口を経由した生活保護、または東京チャレンジネットの制度利用だ。緊急事態宣言と無関係に、常時提供している東京チャレンジネットの場合、無料のビジネスホテルで快適に寝泊まりしつつ、本人が就労してアパートの初期費用を貯金し、アパートに入居して安定した職業生活を継続するモデルである。しかし現在、「自助」によってアパート入居に到達することは困難だ。

「すると、生活保護が現実的な選択肢ですが、申請をためらう方が多く、“出口”につながりにくいのです」(北畠さん)

 生活保護の申請や制度利用につきまとう濃厚な「恥」の意識は、必ずしも、個人の意識の問題とは限らない。

「住まいがない状態から生活保護を申請した時、福祉事務所職員から『無料低額宿泊所への入所が条件』と誤解させられるなど、二級市民として扱われるような制度になってしまっています。国として、恥ずかしいことです。国際的な人権感覚に照らせば、新型コロナと無関係に、プライバシーを守れる個室環境が必要なはずです」(北畠さん)

 無料低額宿泊所の中には、プライバシーや居心地に配慮した良心的な事業者もある。しかし、生活保護費のほとんどを多様な名目の経費として徴収しつつ、劣悪な住環境や食事を提供している事業者も多い。