医療崩壊に象徴されるように当たり前と思っていた社会のシステムが危機に直面する姿も目の当たりにした。今や制御不能に陥りつつある感染拡大の中、この国の政治はこの危機に対処できているとは言い難い。

 パンデミックは健康の危機であると同時に社会の危機であり、感染症との戦いは見えない敵との戦争でもある。

 筆者は、戦争という危機をくぐり抜け、日本を再建した明治・大正生まれの人たちが、その体験を通じて得た人間と社会に対するリアルな現実認識から多くのことが学べるのではないかと思っている。

戦後の社会秩序作りや復興を
担った明治・大正世代

 この世代の人たちは、まさに「大人」として戦争を体験した人たちである。実際に戦地に赴いて戦闘に参加し、空襲で家を焼かれ、多くの家族・友人・仲間を失っている。そして同時に、この世代の人たちこそ、焦土の中から国を再建した人たちでもある。

 今の私たちがよって立っている社会秩序――ここでは「戦後民主主義」と呼ぶことにする――を形作ったのは、実はこの人たちだ。明治40年生まれは昭和20年に38歳、大正13年生まれは21歳である。戦後日本の復興を担った中核世代といえる。

 この人たちの人生に思いを致して見ると、波乱万丈の人生だ。日清・日露の戦争、第1次世界大戦、スペイン風邪、ロシア革命、シベリア出兵、大正デモクラシー、関東大震災、大恐慌、5.15事件に2.26事件、日中戦争、太平洋戦争、本土空襲、原爆被爆、そして敗戦、無条件降伏。

 20世紀は「帝国主義と戦争の時代」といわれる。彼らはそれらをくぐり抜け、築いたものをいったん全て失いながら戦後の焦土に立って復興の先頭に立ったのだ。

 国を再建する、ということを、理念を高らかに語るわけでもなく、高邁な理想に燃えるわけでもなく、唯々自分の生活とこの国の復興のために、自分ができることを黙々と積み上げていった人たちである。

 彼らの世代にとって、戦争とは極めてリアルな人生体験である。

 戦後、戦争体験の風化が進む中で、自分の寿命と競争するかのように戦争の記憶や戦禍の体験を語り継ごうと活動しているのもこの世代の人たちだ。