ローソンPhoto:Diamond

 昭和生まれにとって五輪の公式スポンサーと言えは、赤いラベルの砂糖水を売る会社よりも、黄色のコーポレートカラーを纏い、「決定的瞬間」を捉えるイーストマン・コダックのほうが鮮烈であった。しかしそのコダックも13年前の北京五輪を最後に公式スポンサーの座を降り、12年には経営破綻へと追い込まれた。それから約10年。経営学の教科書は、同社の経営にダイナミック・ケイパビリティ(進化適合力)が欠けていたのが原因だったと指摘する。

 現状を維持しながら効率やコスト削減を進めるとともに、自社株買いなどを通じて株主利益の最大化に励むオーディナリー・ケイパビリティ(通常適合力)には長けていたものの、環境の変化を前に自己を大きく変革し、イノベーションを引き起こす力を経営陣が持ち合わせていなかった。

 翻って、曲がりなりにも自国開催となった東京五輪の「高揚」すら、無縁に終わった国内製薬業界。薬価引き下げの圧力が毎年強まる状況下にもかかわらず、通常適合力で凌ごうとする会社が中堅以下の各社に目立つ。「先見的独創と研究」との社是を掲げる持田製薬は、その代表例と言えるかもしれない。

 社運を賭けるようなM&Aからは一貫して距離を置き、同族経営をいまなお堅持。導入と導出を小刻みに重ねながら、画期的新薬の自社創製を夢見ている。連結売上高が1000億円程度という「身の丈」を弁えた経営と呼べばよく聞こえるが、これを続けていては、余計なお世話だろうが、同社の将来を支えるイノベーティブな人材の確保は難しいだろう。

 そんな持田が6月末、高脂血症治療剤として開発してきた新規高純度EPA製剤「MND-2119」(一般名=イコサペント酸エチル)の承認申請を行った。既存の「エパデール」に製剤設計上の工夫を施して、消化管での吸収改善を図ったというのが売りだ。エパデールが「閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍、疼痛及び冷感の改善」を効能・効果として最初に上市されたのが90年6月であったので、平成の世をほぼジャンプして令和に現れるかたちになった「新薬」である。