自律する子の育て方は、職場の人間関係や自己実現を考えるうえでも役に立つ。ビジネスパーソンにとっても、多くの教訓が得られる一冊である。(金井美穂)

本書の要点

(1)教育の本質的な目標は、子どもたちが自分自身を成長させ、幸せな状態をつくり出せるようになることだ。その実現に不可欠なのが、「心理的安全性」と「メタ認知能力」である。
(2)否定されない環境を用意することで、子ども自身がストレス反応との付き合い方を見つけ、自力で心理的安全状態をつくれるように導くべきだ。
(3)メタ認知能力を高めるために必要なのが内省だ。自分を俯瞰的に見る訓練を繰り返すのである。その際は、いたずらに「反省しない」ことがなにより大切だ。

要約本文

◆子どもの自律を阻む日本の学校教育
◇行き過ぎた親心は子どもの自律を阻害する

 科学技術の発展とともに、経済や社会の構造は大きく様変わりし、かつて常識だったことが通用しない時代に突入した。そこにコロナ禍である。自ら考え、判断し、行動できる「自律」が何より求められるようになった。はたして日本の学校教育は、こうした時代の変化に合わせてアップデートできているだろうか。

 日本財団による「18歳意識調査」を紐解くと、日本の若者は「自分が社会や国を変えることのできる存在だ」と思っていない。そのため、社会に対して「責任を負う」という意識がなく、社会課題への関心も低い。

 なぜ日本の若者には、当事者意識が欠如しているのだろうか。その原因は、日本の社会全体がサービス産業化したことにある。自分で考えることなく、過剰なサービスを受けて育った子どもには、自分でなんとかしようという思考回路が生まれない。課題の解決に必要な「より良いサービス」を求めるだけで、満足がいかなければ「サービスの質」に文句を言うばかりだ。

◇子どもの自律と学力向上は両立する

 子どもの自律性を養うことは、文部科学省の上位目標でもある。しかしそれが教育の現場で実践されているかというと、残念ながらそうとは言えない。本来であれば、知育(勉強)・徳育(道徳)・体育でバランスを取るべきにもかかわらず、現状の教育内容は知育に偏り、学校はペーパーテストの点数を上げることに躍起になっている。手段が目的化しているのが、教育現場の現状なのだ。